スレッスレ、カスッカスの好感度。
「――アリアンヌ様、こちらをご覧ください」
イヴが持ち出してきたのは、筆記用の本でした。そちらをテーブルに広げております。彼の綺麗な字で綴られているのは――殿方の情報。
「あなた……」
入学前に情報をまとめてくれると言っていましたが、ずっと書き溜めてくれていたのでしょうか。あなたという人は……!
「……いえ、本題はここからなので。そこで感動されても、話が進まないというか」
「あら、失礼しましたわ」
今のメタ発言ではなくて? まあ、その通りではありますけれども。
「あなたが、えっと……普通の友愛。そう、友人として? 彼らと関係を築きたいというなら。僕はこうした形でも御力になれるかなって」
イヴは昨日から探っていたと、そう加えておりました。 元々、イヴは情報屋という立ち位置ではありました。今回もそうしてくれるというのでしょうか。そのような寝不足になってまででもありましたから。あまり無理はして欲しくないものですが……。
「……粗方、調べ終えたから。もう無理はしないから」
「……そうですの。ありがとうございました。お世話になりますわね」
「うんっ」
私がそう言うと、イヴは頷いてくれました。私が見る限りは、嬉しそうでありました。
「そう、この本は僕が記したものだけど。でも……この数ページだけ。書いた覚えがないものがあって」
「どれどれ――」
イブが提示してくれたページ。可愛らしい絵やら、何らかのデータやら。数値は見当たりませんわね。
「そうそう、これこれ。これですわ。好感度ですわね」
私は見た瞬間に察しました。俗に言うあれですわね。――好感度画面のようです。
ページ両面に渡って四分割されております。表記されているのは、攻略対象の四名。デフォルメされた彼らの横、一つ一つハートが置かれてあります。おそらく、こちらで好感度を計れるのでしょう。
「……好感度?」
「……ええと、おそらくではありますが。ほら、こちらの形。この中に、薄い桃色のものが溜まっておりますでしょう?」
私はイヴに教えることにしました。彼もそうですが、私も不思議そうに見ておりました。本物の液体のように、動いているのですもの。
こう考えられるでしょう。イヴの本に、不思議な力でも宿ったのでしょうね。恩恵に授かったということで。
「……」
「……」
私の絶望に打ちひしがれた顔を見て、イヴも察したようです。
その、どの殿方もあまりにも低すぎて。ハートの底面を這うようではありませんか……。
「こちらは殿下だね……婚約者だったくせに。奴め」
「ええ、まあ……」
奴、ときましたか。まあ、私は窘める気にもなれませんし、するつもりもありません。
ああ、モヤモヤしますこと! 一番低い、もう空でしょうという状態というね。曲がりなりにも私の婚約者でありましたのに。
「……ねえ、イヴ。まずいのかしら」
好感度もさることながら、ブリジットと婚約関係ですから。殿下の熱の上げようも相当のものですわ。あの二人は最早、成立したといっても良いのでは……? 破棄された私は果たして、巻き返せるのかしら。
「どうなんだろ……」
イヴは深刻そうな表情をしていた。ええ、そうですわね……。このままですと、ブリジットと殿下は結ばれて。私は冤罪を――。
「イヴ!」
「アリアンヌ様!」
私達は同時だったようですわ。ええ、一縷の可能性にかけること。
もうね、殿下は一旦放置します。王族相手に言葉が悪い? もう知りませんわよ。
「残る三名の方から……ええ、好感度が高そうな方ならきっと。味方になってくださるはずですわ」
この中の一人が味方してくれたなら。友愛、ハッピーエンディングの力でゴリ押せるかもしれません。
希望は見えてきたようです。そうですね、まだ足掻けるようですわね。
「改めまして、私への好感度は――」
ええ、どなたもどなたも。底面ぎりぎりにゆらめいておりますわね! すっかすかですこと、残酷ですこと!




