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イヴ、わたくしに力を貸してくださいませ。

 セレステに既に語ったことは、ざっとあらまし程度。

 私が日本というところで、生まれ育ったことも。こことは全然違う場所。いわば異世界ということ。セレステは知っているだろうから、本当に少しだけ。


「え、それだけ? もっと知りたいのに」


 イヴはもっと聞きたそうにしてましたが、改めて話すとなりますとね? 時間の問題もありますから。


「……前世は誰かの手によって、私の生は終えました。犯人は未だにわからないまま」

「そんな……」


 イヴは自身の手を強く握っていました。爪の跡がついてしまいそうな、血まで出てしまいそうな程。


「……家族や大事な人達にはもう、会えなくなってしまいました。ですが、私はアリアンヌ様として生きていますから」


 私はその手に手を重ねた。イヴは目を大きく明けた。驚きのあまり、彼の手が緩んだ。ならば良いでしょう。それ以上痛めなくて良かったですわ。


「転生するまで、セレステやブリジットと長く過ごしましたね。かけがえのない時間でしたわ」

「長く……いや、ブリジット?」


 色々と引っかかっているようですわね。ええ、彼女の話は段階を踏んで。まずは、事前に話さないといけないこと、多々あるでしょうから。


「……そう、前世から現世にかけての話なのです」


 私は迷っていました。

――こちらがゲームの中。それも親族が制作したもの。それを明かすかどうか。これは、セレステ達にも秘めてきたことです。

 そうですわね……今はまだ秘めておきましょう。


「アリアンヌ様も、私も。理不尽に殺されてしまったから。このまま、やられっぱなしも嫌。何も知らないままなのも嫌。あんな結末も迎えたくない。そう願った時、私は記憶を持ったまま、昔に戻っていったのです」

「うん……なるほど」


 さすがイヴですわね。セレステとしての記憶はでしょうが、私の要領の得ない話にもついていっています。


「……冤罪をかけられたこと。そして、悪意ある者に背中を押されて転落されて……でしたから」

「……それもまた、わからずじまいと。どうして、アリアンヌ様のような方が……」


 イヴは信じられないといった面持ちで、胸を痛めているようです。それは私も同感ですわ。

 さあ、まだ話は続きますわよ。ここからさらに、荒唐無稽な話となって参りますわよ。ああ、そうでした。結末と言い方、いかにも物語感がありますわね。変えましょう。


「結末……いえ、未来とさせてください。未来を望むには、私は殿方の思いを勝ち取らないとなりませんの。――ブリジット様に勝って」

「……へ?」


 そうなりますわね。イヴは口をあんぐりと開けていました。何故、殿方の取り合いをする必要が生じるのか。相手もブリジット様なのか。――だって、乙女ゲーの世界ですもの。


「……冗談ではなくてよ。そういうことになってますのよ! ですが、友愛という形でも成り立ちますから。恋愛が成立しなくても、と申しましょうか?」


 若干苦しくなってきましたわ。ゲームの世界だといっそ、ばらしたくなってきたくらい。聡いイヴもまだ混乱しているようですわ。『友愛ならギリか……』とか呟いてもいました。


「……イヴ。ブリジット様が殿方と結ばれることによって、それを機に破滅の未来へと誘われてしまうのです。私とて必死なのです。困難であると承知もしております。ですから――」


 手、重ねたままでしたわね。私は、触れ合わせた手に思いを込めました。


「おかしな話でもあります。ですが、あなたのご助力も願いたいのです。どうか、私に力を貸してくださいませんか」


 お願いします、イヴ。そして、セレステ。さらに苦労をかけますが、あなたの力が必要なのです。


「アリアンヌ様――お断りすることなんて、あります?」


 イヴは微笑んでいた。


「あなたの御力になれる、それ以上の幸いなんてないから」


 そう言って、イヴは快諾をしてくれました。


「ありがとうございました!」


 私は嬉しさのあまり、手を強く握ってしまいました。ああ、和らげる為だったのに。本末転倒でした。私はそっと彼から手を離しました。思えば許可なく触れておりました。淑女に非ず。


「……ああ」


 イヴは名残惜しそうに……なわけないですね。気のせいでしょう。




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