いざ、アルブルモンドへ。
私たちは港に到着しました。もう深夜を回っており、人の気配はありません。
「……」
「……」
私たちは顔を合わせて頷きました。無人ならばこっそり乗り込んでしまおうと。あの温かい人たちを裏切ることになろうとも――。
「――おーい、アリアンヌちゃーん! ついでにシルヴァン殿。なにやってんだー?……ま、その様子からして良からぬことだろうけどな」
「……領主様」
どうしてあなたが……真夜中の港にいらしているの。それにですわ。彼は漁師の方々を引き連れています。腕の立つ屈強な海の男たちを。
「……こっちの行動を読んだのか」
「!」
シルヴァン殿も警戒しています。私を後方にやりました。
「えー、なんだよ? なに怖い顔してんだよ?」
領主様一人が笑っていました。私たちはこれほどまでに緊張が高まっているというのに。
「……なんなんだよ――夜釣りにいこうと思っただけなのに」
「え……」
シルヴァン殿、なんとも気の抜けた声なのでしょう。私までつられてしまいましてよ。
「船を出すんだよ――行先はアルブルモンドだ。お前達も乗っていくか?」
領主様、あなたという方は……本当に読まれていたのですね。
「ありがとうございます――」
シルヴァン殿は頭を下げようとしましたが、制したのは領主様でした。
「……生きて戻ってきてくれればいい。俺達はな、同胞だと思っているからな」
優しい声で仰ったあと、領主様は船へと向かわれていきました。私もそしてシルヴァン殿も。彼の背に向けて頭を下げたのでした――。
船上では朝日が拝めていても、アルブルモンド領に入る頃には空が曇りがかっていきます。黒く淀んだ空の下、船は進んでおりましたが。
「……っ!」
近づくにつれ荒波が。立っているがやっとなほど船は揺れています。デッキにも出られないでしょう。
「くっ、これ以上は近づけないぞ!」
領主様のお言葉通り、船はこれ以上進められないでしょう。
「シルヴァン殿、泳ぎましょうか」
「……すーぐ、そっちの考えにいくのな」
私の提言に対し、シルヴァン殿は思いっきり呆れられていました。『本当に泳ぎきりそうでこえぇわ』とも。そんな彼が懐から取り出したのは、冒険者ライセンスでした。なにやら薄く発光しているようですわ。
「ここはもう自国領だ。ダンジョンを介して乗り物移動ができるってことだよ」
「まあ!」
私は感動のあまり声を上げてしまいました。そう思い至ったシルヴァン殿も尊敬せずにはいられません。
「……領主様。お礼は改めて」
「ありがとうございました!」
会釈したシルヴァン殿は、私の手をとってデッキに向かっていきました。私も頭を下げ、立ち去っていきました。
「――おう、生きて戻ってきたらな。たっぷりしろよー?」
領主様のお見送りの言葉が耳の残ります。ええ、そうですわね。必ずや生きて戻りましょう――。
荒れ狂う波の上、シルヴァン殿は乗り物を召喚しました。
「レンタル期間残っていて良かったわ……」
現れたのは馬車でした。この船の上から飛び立つことになります。
「アリアンヌ様は後部に――いや」
「ええ、シルヴァン殿」
私はあなたの隣りがいい。シルヴァン殿もわかってくださったようで、頷きました。
私を隣に乗せた彼は、馬車の手綱をとります。馬車が今、嵐の中へと駆けだしていく――。
「――殿下がわからない」
そう呟いたのはシルヴァン殿。彼は手にしたライセンスを見ています。
「……あの人、戸籍抹消してないだろ」
「あ……」
こうして使える、それが意味すること。ギルドにも登録されたままで……私たちの戸籍も残されたまま。それなりの日数が経っているというのにです。
「――今は救出することを考えるか」
「ええ……」
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