祖国に迫る危機。
穏やかな日常が流れています。いつもの仕事帰り、私は夕焼け空を眺めながら港町を歩いてました。
「もうじき、ですわね……」
運命の日にあたる五月末日、明日となりました。このまま何事もなく迎えることになるのでしょうか。明後日になれば六月――おそらくですが、シルヴァン殿とのエンディングを迎えることになる。そうなるとあとは……。
このまま日常が続き、そしてまたループを迎える。
「……そのはずですわ」
私は一抹の不安を覚えながらも帰路につくのでした。
自然と眠れない夜は屋上へ。習慣と化したのですが、今夜はシルヴァン殿のお姿はありませんでした。
「眠れているのでしたら……」
起こすこともありませんわ。私一人でも遠くなる故郷を眺めていようと――。
「え……?」
空の様子がおかしくてならない。暗雲をたちこめている空でした。
故郷で何かが起こっている。私はいてもたってもいられなくなり――。
「――シルヴァン殿!」
玄関を出てすぐのところに彼がいました。腕にのせた鳥をたった今、空に放ったところでした。
「いや、これは……」
シルヴァン殿は後ろ手に何かを隠していますが、おそらく手紙でしょう。祖国の近況を記したもの、そう思ってよいはずです。
「……お見通しってわけか」
シルヴァン殿は祖国の空を見上げていました。それから私の様子を。私の慌てようからしてそう思われたのでしょう。
「……ふう。わかった、話す」
シルヴァン殿は観念したのでしょうか。溜息をついた後、私に説明してくれるようです。
「察しの通りだよ。あの国は襲撃を受けている。ダンジョンの魔物によるものだ。中でも一番激しいのは――王城だ」
「なんですって!」
ダンジョンの魔物の侵略は激化していたと。ついには王城に及ぶまで。
「……どうしてもなんだ。俺を切り捨てた相手だ。だけど見過ごすなんて出来ない、出来るわけないんだ」
シルヴァン殿は苦悶の表情を浮かべられています。殿下に対して思うところがあれど、ええ、そうですわね……あなたにとってかけがえのない相手ですものね。
「アリアンヌ様。俺はちゃんと戻ってくるから。だから待っていて――」
シルヴァン殿は私に諭すように話しかけてきましたが、彼は途中で切り上げました。それはきっと……私の表情を見たからでしょう。
「私とて同じ思いですわ。私も連れていってくださいませ」
「……はあ」
私の決意の言葉に、シルヴァン殿はまたしても溜息をつかれていました。想定していたけど、と呟かれてもいましてよ。
「シルヴァン殿。私、あなたをお一人で向かわせたくないのもあります。あなたはきっと――身を投げうってでも、殿下を助けかねない」
「……!」
「ええ、そうでしょう? 私はそれを望まないのです。共に生きて帰りましょう」
「……はは、かなわないな」
苦笑したシルヴァン殿は、私の手をとりました。そのまま駆けだしていきます。
「……」
あなたの答えなのですね、シルヴァン殿。私も共に連れていってくださると。
「――鉄道だと封鎖されている。そもそも乗せてももらえないしな。使うなら海路だ。あっちに着きさえすれば、あとはどうとでなる」
「かしこまりました。あとは船ですわね」
「ああ、頭はいくらでも下げる。どれだけふっかけられてもいい。最悪……強奪だ」
「……シルヴァン殿」
本当なら交渉している時間すら惜しいのだと。シルヴァン殿は葛藤しているのでしょう。
「――躊躇わないで」
「……アリアンヌ様?」
「荒事はお任せあれ。武力で解決してみせましてよ」
「……ははっ」
シルヴァン殿は肩の力が抜けたような、そのように笑われました。




