表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

210/438

新たな地は優しいけれど。



「……嘘」


 あまりにも信じられなくて、私から思わず出てしまった言葉。


「……嘘とかいうなよ、人の告白を」

「し、失礼しました……」


 若干怒り気味の彼に窘められてしまいました。では、冗談ではないと……。


「……」


 より高くなる体温、速く脈打つ鼓動。そして。


「もっと後、落ち着いた頃合いで言うつもりだった。それなのに……我慢できなくなっていた」


 吐息混じりの声。決して戯言でも軽口でもないのだと、私は思い知らされる。


「……俺、おかしくなってるな。うん、そうだ。先に挨拶回りしてくる。生温い風にあたってくる」


 私を抱きしめる力は緩んでいき、密着していた互いの体は離れていく。


「……」


 私の頬は紅潮したまま、酸欠気味の頭で彼を眺めていました。


「わ、私もご一緒に参ります」


 おかしくなっているのは私もでしてよ……! 私も風にあたりたくなりましたの。


「はあ!?」

「参りますったら参りますのよっ」


 シルヴァン殿の反応は著しくありませんが、私は彼についていくことにしました。


「……返事とか、今はいいから。まずは生活を安定させてから」

「……それは」

「お願い」

「……はい」



「……」

「……」


 私たちはつかず離れずのぎこちない距離で歩いています。陽気な港町の住民たち、最終目的地は領主の邸。ご家族に対応していただき、領主様が玄関口までお越しくださいました。


「お初にお目にかかります――」


 おお、シルヴァン殿の優美なる笑顔は現役でしてよ。私を守るように立って、挨拶を交わしておりますわ。っと、シルヴァン殿に見惚れている場合ではありませんわね。私も挨拶をしませんと! 


「……。こちらで紹介させていただきますね、彼女は――」


 ……シルヴァン殿からしていただくことに。私の気のせいでしょうか、彼は牽制しているような。


「おいおいー、独占すんなよー? 俺にも挨拶させてくれよぅ、アリアンヌちゅわーん!」 

「はは、独占などと。ご挨拶は私が代わりに務めさせていただきましたので。どうかご容赦を」


 いえ、気のせいではありませんわね。道中、噂されてましたもの。こちらの領主は……女好きであられると。シルヴァン殿は微笑みは絶やさないまでも、苛立ちは隠せないようです。それを感知した領主様にいじられていますわ……。


「へっ、うちの娘と同じ年頃だろうに、自重するっつうの! そっちと違ってな!」 

「くっ……」


 シルヴァン殿、やりこめられていますわ……。ええと、まだおちょくり続けそうですわね。ここらで……。


「……ま、まあ。同じ年頃のご息女ですの? いずれお会いしたいものですわ」


 話の流れを変えつつも、私は交流してみたいという本音ももらしていました。


「もう是非是非ー! 大歓迎だし、気軽に遊びに来てくれな? ……色々あったようだけどな、俺達は迎え入れるから」

「……まあ、ありがとうございます」


 子供に向けるような温かな眼差し、私たちを招き入れてくださるのだと。胸が熱くなったのは私だけではないでしょう。


「ありがとうございます……」


 シルヴァン殿も感謝の気持ちを伝えていたのでした。



 温かな町。私たちは受け入れてもらえた。新天地でも頑張れそうです――。



 粗方の片付けや新生活の準備も済まし、夜となりました。就寝の時間となります。


「静か……」


 私は屋根裏を経て、屋根の上までやってきました。ここからがよく一望できるかと。

 山々が隔たりになっており、祖国の市街地までは見えません。小さく見えるのは空に浮かぶダンジョンくらいでしょうか。


「……お元気でしょうか」


 新生活の決意はしていても、シルヴァン殿に悩まされることになっても。頭から離れることはないのは、私たちの故郷のこと。


「……婚約破棄ですものね」


 また悲しませてしまいましたのね……。


「!?」


 屋根に上る音がしました。誰かがやってきたようです。シルヴァン殿でしょう。


「……せめて居間か庭先かと思いきや、屋根ときたかぁ」


 彼は呆れきっていました。私の隣までやってきて腰かけてきました。


「アルブルモンド、見てたのか」

「……ええ」


 私と並んで展望しているシルヴァン殿。彼もそう、懐かしむようにみています。心にも刻んでいるような。


「で、眠れないと」

「……はい」

「だよな、そうだろうな……」


 シルヴァン殿もそうなのでしょう。私同様、思い入れもあったことですから。


「アリアンヌ様、頼みがあるんだけど」

「ええ、どうぞ?」 

「――次からは一声、かけるようにして」


 とても穏やかな声。私にある感情は戸惑いと――言葉では言い表せないもの。


「……すぐには割り切れないよな。だから、一人で落ち込まれるよりはって」


 どこまでも優しい瞳で私を見つめてきていて。


「……ってのもある。俺が一人にしたくないんだ」

「……シルヴァン殿」


 真夜中の逢瀬だというのに。シルヴァン殿を無為に起こしてしまいかねないのに。


「……はい」


 私はそう答えていました。


「よかった」


 シルヴァン殿は小さく笑ってました。


「……」

「……」


 肩が触れ合いそうで、触れ合わない距離。そんな私たちは遠くにある故郷を並んで眺めていたのでした――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ