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殿下のお傍よりも。


 走って、走り続けて。辿り着いたのは――孤児院。


「大丈夫か!」 


 息を切らしながら、シルヴァン殿は勢いよく扉を開いた。


「……まあ、シルヴァン。そして――」


 マザーと慕われる老人を中心に、子どもたちは固まって震えていました。ああ、恐ろしかったことでしょう……。


「無事で良かった……よく、耐えたな」

「うわぁぁん、シル兄ちゃん……!」


 彼らは決壊しました。慕っていたシルヴァン殿の姿を見て、駆け寄っては抱き着いてきます。


「ええ……頑張りましたわね」


 私にも数名抱き着いてました。私もそう、彼らの頑張りを讃えたかったのです。



 泣き疲れて眠った子供たちを、往復して寝室まで運びました。これで全員ですわね。


「……ありがとう、な」

「いいえ、お安い御用でしてよ」


 私にお礼をいうと同時に、シルヴァン殿は足元に目線をやっていました。私は大丈夫だと足を小さく振りました。すっかり痛みも飛んでましてよ。


「……俺、何も考えてなかった」


 シルヴァン殿は壁にもたれて俯いていました。


「側近なのに……エミリアン様のお側に行かないで」


 自嘲気味でもあるようです。シルヴァン殿がお見かけした殿下のお側に行かなかったのは、確かなことですが。


「――今、俺がこうしていられるのは……エミリアン様のおかげなのに」


 とても悔いているシルヴァン殿が、どこまでも辛そうで。


「……」


 私はシルヴァン殿の隣に移動し、彼のように壁に寄りかかりました。


「それが最近揺らいでいる」

「え……?」 


 私は日頃のあなたを見ていたから、そう思えておりましたのに。想定外の返答ともいえました。


「いや、殿下は恩人だよ。俺を救い上げてくれた――『約束』だってしてくれた」


 約束。かつてのあなたが殿下に確認していたこと。あなたにとって――代えがたいもの。


「普通の約束――この国をよくしてくれって。エミリアン様は快諾してくださった」

「……殿下が」

「そう。そんな方……それなのにな」


 隣から視線を感じ、私は横を見た。驚いた……シルヴァン殿がこちらを見ていたとは。


「最近、エミリアン様が遠く思えてならない。だけど、それだけじゃない。俺が、俺自身の在り方が……」

「……シルヴァン殿?」

 

 こんなにも彼と見つめ合うことはありませんでした。彼がこんなにも訴えるかのように、私を見つめてくることなど。


「……。馬車の手配済ましてくる」


――とんでもないことを口にする前にと。シルヴァン殿は先に下りていきました。


「……」 


 強固なる絆があるのは確かなこと。けれども、それだけではない。一枚岩ではなさそうですもの。シルヴァン殿が――離反していた時期も目にしております。


「……」


 私も、私もそうでした。殿下を見つけたというのに――私はシルヴァン殿を放ってはおけなかった。


「……この気持ちは」


 良い関係を築けているから。それは『友愛』という関係のはずなのに。そのはずなのに。




 都に降り立った魔物の衝撃が冷めやらず。軍の警備は強まっています。もう五月にも入りました。運命の日は着実に近づいています。


 私にも出来ることならと休日はダンジョン、平日でも夜中にこっそりとダンジョン。少しながらでも貢献できるのならと、魔物の討伐に励んでおりました。



 日々も過ぎていき、魔物の襲撃も減ってきたと耳にしています。この調子で鎮静化してくれたらと思っておりました。

 そう、何事もなく。



お読みいただきまして、ありがとうございました!

明日も続きを投稿予定です。

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大変励みになります!よろしくお願い致します。 


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