ダブルデート当日、殿下の狙いは。
ついに迎えたのは約束の日。俗にいうダブルデートですわね。私は邸の玄関にてお待ちしておりました。
『――アリアンヌ、ここらで勝負をつけるのよ。お母様の必勝ワンピースを着用なさいな!』
と、意気込む母によって私は仕立てられました。以前にも着用したことがある母の勝負服に、メイド達による渾身のヘアメイクでしてよ。もとより殿下が格式ばった服は控えるようにと仰っていました。適していることでしょう。
「――お迎えに上がりました」
「……!」
シルヴァン殿が参られました。彼もまた軽やかな装い。前髪もきっちりと上げてもいませんわ。見慣れない姿で……。
「……」
黙ってしまったのはシルヴァン殿もそう。私たちは互いに視線をそらしたまま、ずっとそうなりそうでしたが。
「……殿下もブリジット様もお待ちです。さあ、こちらへ――」
馬車を近くまで控えさせていたようです。私も彼の案内についていくことにしました。
馬車に乗り込むと既にお二人は乗車されていました。隣同士かと思えばそうではなく、彼らは向かい合って座っています。それでも見つめ合っていて良い雰囲気ではありますこと……ええ。
「……おおう、アリアンヌ。ささ、君はこっちだ。シルヴァンはあっちー」
「ええ、かしこまりました」
私の存在に気づくと殿下は誤魔化し笑いをしていました。手招きされた私は殿下のお隣に座ることになりました。シルヴァン殿も彼女の隣へ着席しています。
「……ほんと、いつもと雰囲気違う。シルヴァン様素敵です」
「はは、お褒めにあずかりまして光栄です」
体をすっかり委ねきっているブリジット嬢に、シルヴァン殿も満更ではないのでしょう。彼から笑顔が溢れていますわね。悪い気はしないといった感、出てますもの。
「ぐぬぬ……」
殿下はまさに見せつけられているといっていいでしょう。歯を食いしばってますわ……。
「……」
焦るのは殿下だけではありませんわ。私とて人のことは言えないのです。望む形は友愛であれど、かといってブリジット嬢との仲を祝福するわけにもいかず。
「ぐぬぬぬ……」
殿下……そこまでですの? 私も私ですが、私以上でしてよ? 隣から漏れだす負のオーラに圧されていましてよ?
「……ええ、そうですわね。皆様、本日は楽しみですわね。仲良く四人で回りましょうね? 仲良く、ね?」
私は名案だと手を叩きました。これぞ後腐れもないでしょう?
「お、おう。そうだな、アリアンヌ! 四人で仲良く、だな」
「ええ、殿下!」
まあ、殿下が賛同してくださったわ。正直、一番心配だと思ってごめんなさいませ!
「四人だって? 私……こっそり抜け出したいなぁ?」
ブリジット嬢は隣のシルヴァン殿に耳打ちしています。思いっきり聞こえてましてよ?
「はは……お二方の仰ることですから。皆様で楽しく回りましょう?」
「えー……でも、シルヴァン様がそう仰るならぁ」
シルヴァン殿も笑ってはいても、それとなくいなしていました。といっても、頬を膨らませているブリジット嬢を可愛いといった表情で見てはいます。
「ぐぬぅ……」
殿下は呻いてばかりです。ブリジット嬢も承諾してくださったのです。まさかですわよね……殿下?
そう予想しておりましたのに。予測ついていましたのに……!
「……殿下、あなたという方は」
「あー……してやられましたね」
人で賑わう都の広場にて、『私たち』は……取り残されてしまいました!
「ああ、なんてこと……」
私は目が眩みそうですわ……ええ、殿下のせいで。彼は上手くはぐれていきました。もちろん、ブリジット嬢を連れて。あれだけ嫉妬を向けてましたもの、そうしたくなってしまったのでしょう。
「……御身は大事に至らないでしょうが」
今の私たちもそうですが、殿下ならもっと護衛の方を潜ませているはずです。王家直々でもありますもの、余程のことはないかと存じますが……。
「いえ、追いかけましょう!」
万が一ということもありますもの。お姿を見て安心したいのもありましてよ。シルヴァン殿も頷いてくれました。ただ――。
「――アリアンヌ様。あなたの御身も大事ということ、ご理解くださいませ」
「え、ええ……」
私と彼の距離が近づく。シルヴァン殿は私を守るかのように体を寄せています。
「……」
彼の体温が伝わってくる。私の心は波立つばかりで――。
それからの私たちは殿下を見つけては、逃げられて。見つけては逃げられて。それの繰り返しでした。
「……くそ、罠でも仕掛けてぇ」
シルヴァン殿、素が出てしまっていましてよ。こちらが武力行使が出来ないのも、中々捕まえられない要因ではあるのでしょう。
「……失礼致しました。アリアンヌ様、お疲れではございませんか? 近くにカフェもございます。お休みになられては?」
シルヴァン殿は外面モードを取り戻したようです。彼は提案してきました。
「いえ、お気になさらないで。私、体力はありますの」
「体力はあっても、靴は慣れてないでしょう?」
「……あ」
ヒールの高い靴は慣れてはいても、ここまで走り回ることはそうありませんでしたもの。今になって私は靴ズレをしていることに気がつきました。少しばかりの痛みも今となって。
「俺が疲れたんだよ。ほら、休む休む」
「……はい」
近しい距離だからこそ、聞き取れる声。私は縮こまっての返事となってしまいました。




