私室に飾りたい絵。
「喜んでくれたんなら……それは良かったけど」
「ええ、とても。ただ……」
「ただ……なんだよ?」
シルヴァン殿は視線を外しながらも、私に尋ねてきます。ええ、お伝えしましょうか。
「せっかく描かれた絵がもったいないと思いまして。私、額縁も用意しようと思ってましたのに」
シルヴァン殿作の猫の絵。朝起きたら消えてなくなってしまいましたのよ? なんてもったない!
「お時間ある時にでもお願いしたいですわ。また描いてくださりませんこと?」
「げ……あんなの前座だろ。あんな微妙な絵」
あら。シルヴァン殿を難色を示されてますわね。ですが。
「ふふ。私、もう一押しな気もしておりますの」
「は……?」
「あなた、実は気に入っているのではなくて?」
「!」
こちらの反応、その通りのようですわね。だって。
「……わかるようになったと申しましょうか。あなたなら別の手段も用いたでしょうに」
「……くっ、適当じゃねぇの?」
「まあ。確かにそんな気がしたともいえますわね。ふふふ」
私はくすくすと笑いが止まりません。どこか拗ねているような彼が可愛らしく――。
「……?」
私は自身の胸元に手をあてました。今の感情は……。
「……絵、描くこと自体は嫌いじゃない。まあ、父みたくはいかないけど」
どこか顔を赤らめたシルヴァン殿の目線の先――父君が描かれた絵がありました。『家族』を描いたものですわね。
「……ええ、まあ、本職ですものね」
「これはまあ、はっきり言ってくれるのな」
ああ、お顔が引きつってますわね。ですが、それは一瞬のこと。彼は懐かしむように絵画を眺めていました。
「失礼いたしましたわ。私、あの絵を気に入って……一目見て気に入りましたもの」
私はあの絵を見て一瞬で心を奪われましたから。あの絵が持っている――。
「温かな絵だと思いましたわ。それはシルヴァン殿の絵からも感じられるもの。見ているだけで心が満たされますのよ……」
私にとってはあの絵だって好ましき絵。いつまでも飾っていたいと思えるような。こんなにも満ち足りた表情になれるような――。
「……まあ、あんな絵でいいなら」
「ま。あんな絵などと仰いますの?」
「言うんだよ、俺は! つか、父さんの絵と同等扱いとかねぇっつの」
シルヴァン殿は乱雑な言いようでしたが、彼は途端に悪い顔をし始めました。
「――いいけどなぁ? 散々貢いでもらったんだ、礼がタダで済むならなぁ? いくらでも描いてやるよ」
「ま、シルヴァン殿。タダといえどあなたの時間はいただいてしまいますのよ?」
「はっ! いいんだよ、なにせタダだからなぁ?」
なんと、笑い飛ばしてもくるじゃありませんの。それだけではなく。
「モチーフはそうだなぁ……どっかで暴れ回る誰かさんにしてやろうか? 勇ましく描いてやるよ」
と、この私を描こうとしてますわ。それもこの口ぶり、ダンジョンでの暴れっぷりを描こうと!
「そ、それは困りましてよ! ちゃんと令嬢として描いてくださいまし」
私はシルヴァン殿の元へと詰め寄りました。本当に困りますもの……!
「えー? そっちのが描きやすいんだけどな?」
「……シルヴァン殿? 本当に困りますのよ? 私の部屋にも来客があるのですから」
イヴもそうですが、何より家族が。ディディエお兄様も頻度が高めでしてよ。
「……来客、ねぇ。どこぞの従者サマとか?」
シルヴァン殿は最初は面白くなさそうな顔、それからは……思い詰めた顔。そう表情を変えていました。
「……どこぞの兄君とか」
「!」
私にはすぐ誰を指したのかわかったのと同時に――形容しがたい気持ちにもなりました。
「っと、失礼致しました。ディディエ様、ディディエ様。とても妹思いの方のようで」
シルヴァン殿は装うとしてますわね。兄からの話し通り、距離をとろうとしているのでしょう。
「……」
お兄様、お伝えしてもよいでしょうか。よろしいですわね。
「シルヴァン殿、兄は寂しがっていましてよ。あなたのことを気にしていました」
「……そっか」
シルヴァン殿のお返事はそれのみ。それでも微かに笑んでいたのだと、私はそう思えたのでした――。




