月の光を浴びた贈り物。
「まあ、決まりだ! 市街地で食べ歩きするぞ! ああ、護衛はこちらで用意する。イヴ殿にはしっかりと休んでもらいたまえ! わははは」
「ご配慮感謝いたしますわ、殿下」
どうやら本決定のようです。話が済んだと殿下は部屋を出ようとしています。
「よしっ、ブリジット嬢にも話してくるっ。シルヴァン、お見送りの方頼むなっ」
殿下は慌ただしく部屋を出ていかれました。残されたのは私たち二人です。
「……本当にあの方は。いかかがなさいますか? お帰りになられてもよろしいかと」
殿下がいなくなった後、シルヴァン殿は呆れと苛立ちが混じった声を出していました。
「そうですわね……」
殿下はこの分ですと戻られることはないでしょう。帰っても問題ないかと思いもしました。
「ぎりぎりまではお待ちしますわ。先日は帰ってしまいましたし。本来は待つ立場でありますから。たとえ戻らなくても。あの方が……彼女に夢中だとしても。私はあの方の婚約者ですもの」
今後は数えきれないほど、同じ思いをすることでしょう。今からでも心構えをしておかないと。
「……婚約者、だからか」
壁によりかかったシルヴァン殿は、態度を崩されています。
「そうだよな……はあ、わかった。アリアンヌ様」
シルヴァン殿は溜息ひとつ吐いた後、私に話しかけてきました。
「私めでよろしければ、お相手仕りますので」
「ま、話し相手になってくださるの? 喜ばしいこと」
仰々しく話す彼は、いつもの彼。ちょうど私からお伝えしたいこともありましたわね。そうしましょう。
「シルヴァン殿。とても素敵な贈り物……ありがとうございました」
私は席を立って礼をいました。顔も自然と綻びます。
「……は? 開けたのか? ずっと曇ってただろ?」
私からの感謝の言葉に、シルヴァン殿は数度瞬きをされていました。彼の仰る通り、今この時間まで曇ってはおります。ですが……でしてよ?
「ふふ、奇跡といえましょうか。ある時だけ晴れましたの。我が祈りの賜物でしてよ。ほほほ」
私は得意になって笑いました。高笑いもしたくてうずうずしておりますわぁ。シルヴァン殿は『嘘だろ……』と頭を抱えていますわね。
「……まあ、いずれはバレるしな。仕方ない」
「そんな。本当に素敵な贈り物でしたのに。黒猫の置時計、とても愛らしゅうございました」
シルヴァン殿が下さったのは、クリスタルで作られた猫の置時計。そちらは――あのイラストが変化してできたもの。月の光を浴びるなんて、なんと粋ですこと。




