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シルヴァン殿からの贈り物。


 今宵も雷雨。毎回のことともいえますわね。迎えたはアリアンヌ・ボヌールの誕生日。公爵邸にて夜会が催されております。広間ではお招きした客人たちも楽しんでおいででしてよ。喜ばしいこと。


 本日の主役である私も、夜会に相応しい装いと頭にティアラを戴いておりますわ。立て続けに踊ったということもあり、ひと休憩をとっていました。さあ、そろそろ社交の場に戻りましょうか。


「お誕生日おめでとうございます、アリアンヌ様」

「ありがとうございます、ヒューゴ殿」


 正装のヒューゴ殿がやって来られました。微笑んでいた彼も眉をひそめるように。


「……殿下、みえられませんね」

「ええ……」


 私も目が遠くなりました。殿下、またしてもでございました。彼は――欠席すると。

 書簡で届けられた時は一家一同仰天しましてよ。贈り物自体も届けられてません。ディディエお兄様はもちろんのこと、お父様もかなり青筋を立てておいででしたわ……。


「アリアンヌ様。一曲、お相手願えますか?」 

「ええ、喜んで」


 ヒューゴ殿のお誘いもありますもの。今は踊りに集中しましょう。


「こういう時はそうですわね、体を動かせば良いですもの――」

「!」 


 ああ、前回の時にヒューゴ殿が仰ってましたわね。それを受けて驚いているのは彼でした。彼は今回もそう仰ろうとしていたのかしら? 


「……はい、その通りですね」


 ヒューゴ殿は柔らかく笑っておいででした。このように甘く笑われるなんて……。



 ヒューゴ殿と一曲交えた後、私にこっそり声をかけてきたのはイヴでした。彼は後に発生するであろう停電対策のこと、そして。


「――シルヴァン殿がおみえになってます」

「……! ええ、かしこまりました」


 私は内心驚きつつも、イヴの案内により玄関に向かうことにしました。



「――主の名代で参りました。此度は申し訳ございませんでした……主の急病により」


 笑みをたえておいでのシルヴァン殿。ええ、私も大分わかるようになってきましたわね。彼は気まずいことでしょう。


「いえ、お越しいただきありがとうございます。殿下にもお大事になさいますようにと」

「承知仕りました。主より贈り物を預かっております。運ばせますので」


 シルヴァン殿は他の従者方も連れてこられていたようです。近くに停めた馬車から次々と贈り物が運ばれてきます。かなりの量でした。


「まあ、こんなにも……ご苦労おかけしました。殿下にも文にてお礼申し上げますわね」


 本当に大変な量ですこと……いえ、こんなにも? イヴたち受け取る側も大変そうでした。シルヴァン殿も一礼し、運搬に加わろうとしていました。


「……そうだ。いつももらってばっかだったから」


 シルヴァン殿がかなり近づいてきました。ええ、かなり密接した距離です。私にだけ聞こえる声で彼は筒状のものを渡してきました。


「シルヴァン殿、こちらは……」

「誕生日プレゼント」

「まあ……ありがとうございます」


 私はまさかもらえると思っておりましたから。私の顔が綻ぶばかりです。


「……贈った甲斐があったな」


 しばらく私の顔を見ていたシルヴァン殿は呟いています。彼の表情からみて、彼もまた嬉しいのでしょうか。


「部屋に戻りましたら、開封させていただきますわね。ふふ、楽しみなこと」

「いや、月夜の晩まで開封禁止。それじゃ」


 それだけ言った彼は、運搬の方へと向かわれました。月夜ですって? この豪雨において? なんてこと……! 


 と、シルヴァン殿と会話している間に運び終えられていたようです。こっそり手伝おうと思ってましたのに。あ、シルヴァン殿と目が合いましたわ。彼は意地悪そうに笑っています……シルヴァン殿? 


「では、アリアンヌ様。我々は――」


 帰ろうとしたシルヴァン殿とかち合うかのように。


「あ、そこにいたんだ! 捜したよー」


 声を掛けられたのはオスカー殿でした。先程まで女性に囲まれておりましたわね。こちらからの挨拶が遅くなってしまいましてよ。


「オスカー殿。本日はお越しくださりまして、ありがとうございました」

「こっちこそお招きありがとう。でさ、一緒に踊りたくて。お相手お願いしますっ」

「ええ、それは是非とも」

「やった!」

 

 ここまで来てくださいましたし、お断りすることもありませんし。私が承諾すると、オスカー殿は満面の笑みを浮かべられました。その勢いで私の手もとります。


「それじゃ行こっか。皆様、失礼いたしますっ」

「……皆様、ありがとうございました。失礼させていただきますわ」


 私を待っている方々もいらっしゃる。私はこの場から去ることにしました。


「……」


 気になったのはシルヴァン殿の、何かを言いたい、けれども言えない。そういったもどかしさを感じ取れたものでした。



 今日が終わろうとしてます。私は自室の窓によりかかり、楽しかった一日を思い返していました。


「月夜の……」


 窓際の机に置いてあるのは、シルヴァン殿からの贈り物です。月夜とは仰いますが、ものっすごく土砂降りでしてよ? ああ、中身がこんなにも気になりますのに! 


「ああ、止まないかしら……晴れますように、晴れますように、晴れますように!」 


 私は両手を組んで祈りを捧げました。我ながらかなりの迫力でしてよ。私は気合を込めて祈り続けて――。


「まあ……」


 雨は小雨になっていきました。やがて止んでいき、雲がかった空も晴れていきます。月の光が降り注ぐかのよう。


「ええ、開けましょう!」 


 私は早速開けました。筒の中から出てきたのは巻かれた紙――絵が描かれていました。その絵がまた、味があると申しましょうか。独特なタッチで表現された猫? でした。


「シルヴァン殿が描かれたのでしょうか?」 


 本当に味わいのある絵でした。多忙ながらも描いてくださったのかしら。あのシルヴァン殿がこんなにも微笑ましい絵を。


「ふふ……」


 想像したら笑ってしまいました。額縁は……明日にしましょうか。今宵はこのままでご容赦くださいませ。



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