プレゼントはもういいよ。
ええ、予想はしてましたもの。私は休日を一人、自室で過ごしてますわ。あれから殿下からの誘いはぱたりと止まりましたから。殿下はもうね、ブリジット嬢を誘いまくっていますから……!
「ええ、ダンジョンですわよ!」
私にはダンジョンが……プレゼントがありますもの! 私と彼を繋ぐものがそれだけだとしても……いえ、ちょっと待って?
「会わないままですわね」
ダンジョンでよく出くわすのが、宝箱狙いの集団です。彼らは自己の為か、誰かの命からは不明です。はっきりしているのはブリジット嬢と同国出身であること。
もしも、もしもですわよ。命じているのは、ブリジット嬢だとしたら。彼女だってそう、宝箱を開けられる可能性だってある。彼女もまた、私同様に――そうして好感度を上げられるのなら。
「……ええい、物量作戦でしてよ!」
ここは根性で乗り切りましてよ! いささかチキンレースではありますわね。だって、シルヴァン殿の好感度は判別できなくもなっていますし、いつ割れるかも皆目見当もつきませんもの。
「それでも、プレゼント。プレゼントでしてよ!」
私はいてもたってもいられなくなりました。準備は万端ですし、ダンジョンへ赴こうではありませんか。
さあ、陰鬱とした空気が漂うこちらのダンジョン、今回も攻略を――。
「――うわぁ、休みの度かよ」
思わぬ人物が入口にいました。殿下とブリジット嬢の逢瀬に同行しているかと思いましたのに……シルヴァン殿。ラフなお姿ですわね。
「……。僕、もう一度確認してきます」
「ええ、お願いしますわね」
イヴは罠の設置場所を確認と、全体マップが掲示されている場所へ行くのだと。彼は席を外しました。二人きりにしてくれたのかしら……。
「仕方ありませんわよ。あなたの為にプレゼント稼ぎしないとなりませんもの」
「それはそう」
そう言ってシルヴァン殿はけらけら笑っています……シルヴァン殿?
「……つってもな、そろそろいいかもな」
シルヴァン殿は笑うのを止めました。彼は考え込んでいます。
「未来の王太子妃とあろう方に、ここまでさせるのもなんだよな」
シルヴァン殿はいたって真剣な表情でした。それは……困りますわ。
「……あなたは心配してくださるのですね」
「心配……そりゃ、王太子妃ともなれば、だな」
シルヴァン殿は言い淀んでいましたわね。何もそのような内容ではありませんでしょうに。
「……私は、贈り続けますわよ。ダンジョンはまあ、立場上控えることになるとは思われます。ですが、贈り物自体はできますもの」
だってそうでしょう。あなたが一番喜ぶこと、望むことはそれでしょう。市販のアイテムだって微々たるものであるけれど、上がらないこともありませんわ。
本当に喜ぶであろう、現金は……現金は。
「……現金は、現ナマは抵抗はありますけれど、どうにか」
私の声は震えてしまいました。それが第一なのでしょうに。
「……はあ」
シルヴァン殿は溜息をつかれました。彼が、彼がわかりません。
「あのさ。もう充分なんだよ。っていうより――意味がないというか」
「え……」
私に走ったのは衝撃。プレゼントすら意味がなさない。彼は平然とした顔で残酷な事実をつきつけてきました。そんな私の表情を見た彼は。
「ごめん。言葉選び間違えた。本当にごめんな――」
シルヴァン殿から伸ばされる手。彼は私の頭に触れようとして――。
「……何してんだよ、俺」
彼は躊躇った後、手で触れてくることはありませんでした。
「……別にプレゼントがなくても。俺は一緒にいるのが、こうしているのが楽しい。前に言っていた関係を築くってやつ」
――今がそうなんじゃないか。シルヴァン殿はそう仰っていました。
「プレゼントはもう充分だよ。充分もらった……ありがとうな」
どこまでも優しい笑顔。いつもの作ったようなものではない。彼が私に見せてくれるようになったもの。本当に――関係を築けていたのでしょうか。
「……」
実感なんてわかない。彼と多くの時間を過ごしたわけでもないのに。それなのに、この感情は何なのでしょう。今にも泣きたくなるくらいの、胸をしめつけられるような。
「……そういう顔、するんだから」
どういう顔かは自分ではわからない。ひどい顔をしているかもしれない。でもそうじゃないと。彼の、私を見つめる瞳がそう告げていた。どこまでも私を見つめる彼の瞳が――。




