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本命は……シルヴァン殿?


 いつもより騒がしい朝でした。通り行く生徒たちが噂にしているのは――転入生のこと。


「ついに来ましたわ」


 ブリジット嬢の転入時期となったのでしょう。最初はヒューゴ殿、次はオスカー殿と狙っていた彼女です。私の予感に過ぎませんが――彼女はおそらく、シルヴァン殿を狙ってくるはずです。


「……」


 ゲームの仕様というのでしょうか。でなければ、なんなのでしょう。私とここまで被らせてくるのは……ああ、本当にどういうことなの。


 教室に近づけば近づくほど、賑やかになっています。ブリジット嬢はもう教室内に入っている可能性が高そうですわね。

 笑い声が溢れかえってますわ。さすがですわね……ん? 


 その中でもひと際目立つお声。この声は殿下ですわね……殿下? 


「ごきげんよう……?」 


 私は恐る恐る教室に入ってみました。そこに飛び込んできた光景、それは。


「あはは、こいつぅ」

「きゃっ、殿下?」 


 席に座っているのは案の定の殿下と、そしてブリジット嬢。二人はみるからにいちゃついておりますわね。今回は初対面ですわよね? べたべたとお互いを触り合っていましてよ? 


「もうー……助けてください、シルヴァン様?」 


 近くに立っているシルヴァン殿に、甘えるように寄りかかるのはブリジット嬢。彼女の瞳はとろんとしています。


「はは……失礼致しました。殿下、ブリジット様がお困りですよ?」 


 シルヴァン殿から出た自然な笑い。鉄の笑顔によるものではなく、本当に可笑しくて笑ったものでしょう。そのまま寄りかかられてますが、どうやら彼は満更でもなさそうです。


「……」


 私はどうしたものでしょうか。割って入るには、あまりにも雰囲気が出来上がり過ぎていましてよ。


「……おはようございます。その、あまり気にしない方が。殿下は通常運転でありますし」

「……おはよ。そうだけどさ、あんま見ていて気分良くないよね」


 私に気づいてくれたのは、ヒューゴ殿とオスカー殿。彼らはこちらまでやってきて、気遣ってくださっているようです。


「お気遣い感謝します。まあ……そうですわね。普通に挨拶しますわ」


 そう、私は婚約者ですもの。この女好き相手に動じてもいられませんわ。


「ごきげんよう。殿下、教室にいらっしゃってましたのね?」 

「げ、アリアンヌ」


 げ、ですって? 殿下……あなたは変わらずですわね。お言葉を借りるとなると――通常運転ではありませんか。私は頬をひくひくさせましたが、いけないいけない。笑顔笑顔。


「ええ、殿下。して、そちらのご婦人は転入生の方? 私、アリアンヌ・ボヌールと申しますの。よろしくお願いしますわね?」 

「……私はブリジット・バリエです。よろしくお願いします」


 花のような笑顔が消え、彼女は完全に怯えていました。この笑顔でいる私に対してですわ。しかも彼女はシルヴァン殿の腕まで掴んでいました。ぎゅっと離しはしないのです。


「おお、ブリジット嬢。大丈夫だぞ、アリアンヌは怖くないぞー? あ、でも怖がるのも無理はないか、うん!」 


 殿下は必死でした。ほら自分の腕においでとアピールしてます。依然、ブリジット嬢はシルヴァン殿を頼りにしていますわね。


「……ふう」


 ブリジット嬢もそうですわね……彼女もいつも通りです。さて。


「怖がらせてしまったのなら、申し訳ありませんわ。それも至らぬ点があってこそ。そんな私でも、殿下はそのように仰ってくださるのですね?」 

「俺?」 

「ええ、私は怖くないのだと。殿下のお言葉は嬉しく存じますわ。ご理解いただけてますもの。なので、私も理解しませんと」


 そうですわね、殿下はそのような方だと。


「ご婦人に愛を振りまく方ですもの……ねえ?」 

「……いやぁ」


 殿下? 私は笑顔だというのに、どうしてそうも青褪めていますの? 怒ってませんのよ?

 

「ブリジット嬢もでしてよ? 殿下と仲良くしてくださるのは結構ですが……私たち学生ですもの。慎み深くいきましょうね?」 

「……ええと」


 ブリジット嬢も目をそらしていますわね。どこか気まずそうです。


「もちろん、私とも仲良くしてくださいませ?」 

「……善処します」


 あなた……明らかに嫌な顔をしましたわね、今。よいでしょう、言質をとったと思えばよいのです。


 ああ……今回もなのですわね。本命はシルヴァン殿なのでしょう。かつ、殿下との交流も抜かりなく。そうして立ちはだかろうとしても、こちらも負けてはいられませんのよ。




お読みいただきまして、ありがとうございました!

明日も続きを投稿予定です。

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