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聖女の影響力。

 よそよそしい態度をとられたまま、私は教室前までやってきました。何やら賑やかなようです。その方がこちらも助かりますわね。気分が明るくなりますから。


「ごきげんよう、皆様。楽しそうです――」


 私はそこまで言って、固まってしまった。教室の中心にいる少女。注目を浴びている彼女は――ブリジット様でした。同じクラスでしたとは。


「……あ、アリアンヌ様!」

「!」


 会話の中心であったブリジット様はそこから抜け、私の方へとやって参りました。何やら私に話があるようです。


「……あの、ご挨拶遅れてごめんなさい。アリアンヌ・ボヌール様ですよね? 私、ブリジット・ジェルネと申します。あと、今回の件、どこからお話したらいいのか……」


 ブリジット様は両手を組んだまま、お困りのようでした。ええ、気まずいですわよね。

「……」


 私もそうです。同情の視線、哀れみの視線を向けられております。中には、彼女ブリジット様を案じるものも。私が――彼女に刃を向けないかと。


「……?」


 強い視線は、ブリジット様ご本人からもでした。……どうしたものでしょうか。敵意といったものは感じられなく、どこか懐かしむかのような。

 ブリジット、なのでしょうか。あの大樹の元、長い時間を共に過ごした彼女なのでしょうか。でしたら、このような状況であっても、私も喜びたかった。

 あの『葉っぱのアクセサリー』がありましたのなら。身につけてくださったのなら。確証をもってブリジットと思えるのに。今は下手に動けないのが辛いところです。


「……ええ、アリアンヌ・ボヌールでございます。ブリジット様、私のことはお気になさらず。昨日申し上げた通り、祝福しておりますのよ? そして、我がボヌール家も支えて参りたいとも」


 もう話はついたのですから。私は祝福を込めて微笑むことにしました。伝わってくださるかしら。


「ありがとうございます……でも! やっぱり怒ってますよね。あんな人前で、アリアンヌ様に恥までかかせてしまって……!」


 気にしてくださったのですね、あなたは。その心遣いは嬉しいです。ですが、誤解をされているようですね。


「いえ、怒ってなどおりませんわ。ですから」


 ですからどうか……そんなに萎縮しないでくださるかしら。あなた、すっかり縮こまっておられて。それを糾弾している私という図が出来てしまっておりますわ。

 ああ、教室内がざわついておりますわね。今にも泣き出しそうな彼女。顔では笑っていようと、心内は煮えたぎっているだろうと思われし私。困りましたわね、誤解を解かなくては。


「……ブリジット。今はまだ、お怒りも冷めないでしょうから。時間を経るのも大事ですよ。さあ、話を続けましょう」

「……う、うん。ヒューゴ様」


 そう言ったのはヒューゴ殿。ブリジット様の肩を抱いて、輪の中へと戻らせていた。ブリジット様が戻ってくると、彼らはまた話に夢中になっています。私への興味は失せたのでしょうか。


「皆さん、席に着いてくださーい」


 先生がいらっしゃったので、各々席に着く。私も自身の席に着きました。

 ブリジット様と話していない彼らは、またしても私の方に矛先を向けております――怒りとでも、いっておきましょうか。


「……なんて暗い空」


 横目で窓越しに見た空。今朝から天気は優れませんでしたが、灰色の空は濃くなっていってます。いつ降り出してもおかしくはありません。


 困りましたわね。本日、サロンを開催予定でしたのに。場所はおなじみの場所。まあ、別の場所を抑えましょうか。趣向を変えて温室内も面白そうですわね。許可はどちらでとればいいのかしら?

 楽しいことを考えるのです。このような時だからこそです。


「……ええ」


 来てくださりますよね? 皆様、いつも楽しみにしてくださったのですから。きっと、来てくださるはず。



 ブリジット様は本当に人の心を掴まれる御方。瞬く間に、学園の生徒の信頼を得ていきました。ほとんど、いえ、全員といえるのでしょうか。

 ブリジット様の仰る事なら、皆信じる。それは私に対する出まかせであろうとも。

 講堂での私の発言は口先だけ、出まかせ。本当はブリジット様に激怒していると。寄り添おうとしてくれているのに、私が頑なにそれを拒んでいるとも。――謝罪の言葉も受け取らないと。


 私は弁明にも回っておりました。それでも、その言葉は届くこともなく。

 それでも、私としては事実無根でしたから。今は疑いが晴れるようにするしか……。




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