喜ばしい入学。
予定が空いてはダンジョンへ。残りは教育。私の春休みはそうして経過していき――四月。
ついに入学の時がやって参りました。
晴れ晴れしい入学式も終え、私はクラスへと戻ってきました。
「アリアンヌ様、お疲れ様でした。ご挨拶見事でした」
「そうそう! びしっとしてたよっ!」
同級生でもあるヒューゴ殿にオスカー殿。彼らは気さくに話しかけてくれました。
「まあ、ありがとうございます」
クラスの雰囲気も和気あいあいとしていましてよ。
「――アリアンヌー、いるかぁ?」
廊下から響くお声。殿下ですわね。背後におられるのはシルヴァン殿。安定のいつもの笑みを携えています。
「殿下。お越しいただきましたのね。ご用命なれば」
「おいおいー、用とかいうなよー。普通に会いにきただけだって」
「まあ」
入学後の声をかけられること自体、これまでにありましたでしょうか。
「強いていうなら……挨拶頑張ったなぁ、かな?」
「まあ……」
このように労ってもくださるのね。私は感涙してしまいそうですわ。
「っと、君も学友たちと交流したいだろうしな。俺たちはこのへんで」
殿下は手を軽くあげ、シルヴァン殿と共に軽快に去っていかれました。
「――そっか、婚約者だもんね」
「大切にされてるぅ……」
女子生徒方は心をときめかせているようです。まさに婚約者を大切に扱う紳士そのもの。
「……」
今でも考えますの。本当に彼らは――エミリアン殿下やシルヴァン殿は私を貶めいれようとしていたのか。接する機会が増えたからこそでもあります。
「……難しいところですわね」
無論、イヴが嘘をついてるなんて到底考えられません。それでも、今回は。今回のルートならば――違ったりもするのでしょうか。
入学してから、しばらく経ちました。私は本日の授業を終え、帰宅後の食事まで済ませたところです。
「……」
そろそろでしょうか。彼女――ブリジット嬢が転入して来られるのは。
私の大親友の一人にそっくりな彼女。別人とは……思えない彼女。
「――おお、アリアンヌ!」
と、思いに耽っている時。廊下でディディエお兄様とばったり。彼は今帰られたようです。
「本日もお疲れ様でございました」
「おお、アリアンヌ! その一言で疲れがふっとんだわ!」
お兄様は手を大きく振って喜びを表現されています。私も嬉しくなり、微笑みました。
さらに労ってくれということで、私の部屋でお茶をすることになりました。
お兄様を自室に招き、私たちは窓際の席に座りました。紅茶を淹れるのは私から。昔から私が淹れるのは絶品であると、妹に甘い彼は言っていました。
「どうだ、アリアンヌ。学園生活は楽しいか?」
「ええ、お兄様。級友たちに囲まれて笑いながら過ごしておりますわ」
「む……級友。不埒な輩はいないだろうな!」
「まあ、お兄様ったら。そのような心配はなさらないで?」
平和な雑談から一点、兄は険しい顔をしています。それからの私は婚約者がいるとか、そもそもそのような関係には発展しないとか。あれこれ語って、お兄様はようやく落ち着いてくださいました。
「――シルヴァン殿はどうだ。同じ学園だろう?」
ふと、兄がもらしました。突然出てきたお名前に私は目をぱちくりとしました。
「……いや。幼少の頃からの知り合いでな。我と同じ軍学校の――」
兄は言いやめました。私の顔をチラチラ見ています。
「……」
私は察しました――兄とシルヴァン殿は同い年でしょう。それこそ級友だと仰りたいのでしょう。私が存じているとは、お兄様は思いませんものね。
「シルヴァン殿はお元気でしてよ。相変わらず殿下に振り回されておりますわ」
「そ、そうか。難儀なものよ! ああ……後輩、後輩にあたるがな。わはは!」
……ここは知らない振りをしましょう。兄は安心したようでありますが、本当のことは話さないまま、私が知らないという前提で続けられるようですわね。致し方ないことでしょう。
「……まあ、退学したからな。当時、ご両親のことで色々あった。そこからは消息不明だったが……殿下と出逢えたからな。安心しているのだ」
兄は憂いながらも紅茶を口にしていました。
「……そうですのね」
シルヴァン殿。あなたはそうでしたのね……ご両親を。それから苦労をされてきたのだと。殿下と出逢えたことが、彼の幸いであったのでしょう。
「我とて会う機会はある。だがな、奴は他人の振りをしおってな……仕方ないことではあるがな!」
兄は歯痒そうにしています。ご事情があるにしろ、お寂しいでしょうね……。
「……まあよい。よくやっているようだ。養子縁組もして、今じゃ殿下の一番の信頼も得ている。無論、殿下の懐の広さがあってのことだがな」
「ええ、そうですわね」
それから別の話題に入り……というか、私の級友の話に逆戻りと申しましょうか。ヒューゴ殿たちのことを根掘り葉掘り聞かれることとなりました。
「ですから、お兄様? あのお二人は御友人として――」
それは就寝の時間まで続くことになりました……。




