シルヴァン殿……?
「……はっ」
ひとしきり笑い終えたシルヴァン殿は、口元を歪ませた。
「本当にご寛容でいらっしゃる。あなたがくださった品々、とても高価なものばかりでしたでしょう?」
正直に申すと――下品、下劣な笑み。いつもの綺麗な笑みなどありはしない。
「……翌日、売らせていただきました。良い値段が付きましたよ? ははは!」
また可笑しくなったのか、シルヴァン殿は笑い始めた。彼の笑いは止まらない。彼の笑いが屋根裏部屋に響き渡る。
「この……っ」
イヴは限界を迎えたようです。今度こそ胸ぐらでも掴みかかりそうで――。
「……よいのです」
私は手で制しました。あなたにそのようなこと……させたくなくて。
「……ええ、よろしくてよ。良い値がついたのですわね。なら、もうあなたに遠慮することもありませんわね? ――贈り物、続けますわよ? あなたには利がありますでしょう?」
「……」
シルヴァン殿は笑うのをやめました。私の方を窺っています。そうはっきり言われたのなら、達観した思いも私にはありました。
「シルヴァン殿。側近であられるあなたなら、手当も十分いただいてるでしょうに。それでもお金が入用なのでしょう? どうぞ、お役立てくださいませ」
さしずめ孤児院でしょうか。そう思って――。
「――孤児院の為、そう思われてますか?」
「!」
「……そんなわけないでしょう。こんなところの為じゃない。私は自分の為に使ってます」
「あなた……」
そういった理由ならばと考えていた私の。そんな私の気持ちさえ踏みにじろうとしている。
「ご期待に添えず、申し訳ございませんね? 私利私欲に走る男なのですよ、私はね?」
残酷な笑顔、私はそうした感想を抱きました。どこまでも私を突き落とそうとしています。
「――それでもです、シルヴァン殿。どうぞ、ご自身の為にお使いくださいませ」
「……は?」
もっと悲しそうにすると思ったのかしら。シルヴァン殿は心外そうにしています。
「……アリアンヌ様? 腹立たないのでしょうか? せっかくの贈り物でしょう?」
ほらほら、とシルヴァン殿は聞いてきます。ちょっと執拗ですわね……。
「腹立ちもしますし……寂しくもありますわ」
「……!」
これは私の紛れもない本音。ええ、言いましょうか。シルヴァン殿は驚かれているようですが。
「ええ、本音くらいは言わせていただきましょうか。心までは納得してませんもの」
シルヴァン殿のお好きにとは申しましたが、納得がいかない心は残ったままです。猫の置物とか、素敵なものもたくさんありましたのに。
特に――あの画集。あなたにとって大切な人に関するものだと思ってましたのに。
「……あの画集まで、そう考えたら。どうしてもやるせなくなりましてよ」
あなたにとって、とても思い出の品だったのではないかと。私は……寂しい気持ちは隠せませんでした。
「……。それすらも、売ったとしたら? いえ……売りましたが」
どこまでも追い打ちをかけますのね。
「……ふふ、失礼しました。逆に発破かけられた思いですわ。ええ、これからも贈り物をさせてくださいませ。もう、あなたのお好きなようにすればいいのですわ」
私はやけくそ気味に笑いました。シルヴァン殿は――。
「……わかりやす。結局は納得いってないくせに」
……シルヴァン殿? 私、絡まれているのでしょうか?
「ええ、納得いってませんわよ! だって、せっかく贈ったのに。喜んで使ってほしいではありませんか。それがなんです、売っぱらったとは!」
「おお……ガチギレ」
「……ええ! 私、そんな大人ではありませんもの。ですが、仕方ないこともありますから。せいぜいあなたに貢ぐまででしてよ!」
私はどこまでもやけくそでした。もうね、いくらでもお好きになさってでしてよ!
「おお……言い切ったなぁ、おい」
……? 私、今、どなたと会話してまして? えっと、イヴではありませんわね。彼は無言のまま、肩を竦めておりますわ。
「あ」
しまった、と口にするのはシルヴァン殿。そのわりにはそこまで慌てている様子ではなくて。いえ……シルヴァン殿?
「……なんか、もういっか。つか、元々『ここ』では、こうだし」
彼はご自身で前髪をぐしゃりとされ、ボ、ボタンまで緩めているではありませんか。いえ……シルヴァン殿!?
「……んだよ。好きにさせろよ、ゆっくりさせろよ」
そう言い捨てると、シルヴァン殿はベッドに寝転びました。仰向けになって、瞳を閉じているではありませんか。
「ええと……シルヴァン殿?」
私は戸惑いつつも、お声がけをしますが……寝る態勢に入っている彼は耳も貸さず。
「……ねえ、アリアンヌ様。もう帰りません?」
イヴは呆れながらも提案してきました。それはそうなのです……けれども!
「え、ええ……それもそうですが。というか、イヴは驚きませんの……!?」
この様変わりを! 私はまだ困惑状態が続いてましてよ!? イヴは『いやぁ……』と、微妙な反応です。
「あー、従者サマは嗅ぎまわっていたようだから、察してたんじゃない?」
「起きているではありませんの!」
「すうすう……」
「まあ、狸寝入り……?」
なんという殿方なのでしょう。とはいえ。
「……お休みでもありますものね。お邪魔いたしました。ごゆるりとお休みくださいませ」
気の抜ける時間なのでしょう。長居もすることはありませんわね。さあ、帰りましょう――。




