大勢の前で婚約破棄。
講堂に集められた全生徒達。これだけの人数を収容できるのはさすがですわね。後方の席しか空いておりませんでしたので、私はそちらに着席することに。同じく遅れてきたヒューゴ殿と隣接することになりました。致し方ない流れでありましょう。
「殿下……」
私は確認した。舞台の上に立つのは、殿下。その隣にいるのはブリジットでした。
「皆! よくぞ集まってくれた! 俺の為にありがとー!!」
あ、いつもの殿下に戻ってますわね。といっても、ここまで浮かれきっていらっしゃるのは、早々ありませんが。ええ……隣の少女を赤らめながら見ることなど。
殿下によるお話は続いております。すごいですわね、ノーマイクですわ。地声でやっておられるのですよ?
「改めて紹介するなー! 彼女は、ブリジット・ジェルネ! かの魔法大国にて、救世の聖女として活躍されたんだー! そんでもって、高貴なる血筋でもあーる! 王族でもあるんだー!」
ああ、本当によく通るお声――聖女にして、王族?
私も気が動転しておりますし、生徒達もざわつきが止まりません。殿下が静粛にと問いかけると、流石に静まりましたが。
「父から紹介され……! 俺は、俺は……! 彼女に一目惚れした……!」
殿下は、そう叫びました。彼の絶叫が講堂に響き渡る。言いのけたあとの殿下は、とても満足そうにしておりました。いえ……殿下? え……殿下?
隣で呟いたヒューゴ殿もそう、皆様も呆気にとられております。こんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔を、ヒューゴ殿で拝見出来るとは。ああ、よそに気がとられておりました。耳を疑うようなお言葉だったあまりに。
「あー、照れてるー。かんわいー。こんな恥じらいぶりも愛らしい彼女だが! 芯はとてもしっかりしているのだ!」
隣で顔を真っ赤にしている彼女を締まりのない顔で見ている殿下。
「彼女は、ブリジット様はこう教えてくれたのだ! ――愛は一途であるべきだと! ただ一人、想い合う。自分はそうでありたいと! 俺は、俺は、衝撃を受けたぞー!!」
いえ、衝撃具合はこちらの方が甚大かと。殿下……殿下?
「というわけだ……アリアンヌ!」
「!」
後方にいる私に、殿下は呼びかけました。肉親以外で私を呼び捨てる彼、婚約者でもある彼がこれから言わんとしていること。
その言葉を私は――受けねばならないのだから。
「アリアンヌ、しいてはボヌール家には申し訳ないと思ってはいる! 既に通達済みでもあるんだ、だからわかってくれ! これ以上ない良縁なんだ!」
「……」
ああ、殿下。仰るのですね。何もこのような状況でなくても。このような場所でなくても。
こんな衆目に晒すようなことを、あなたがなさるなんて。
「あの方、正気でしょうか。ほら……精神がやられているとか」
御覧なさいな。あのヒューゴ殿がでしてよ? 引いているのは当然のこと、何故か私のことまで気にしていらっしゃいますわ?
「いえ、殿下はそのようなことは……」
惑わされたとか、精神異常をもたらされた。そういった類いではない。ええ、殿下の瞳に光は宿ったまま。彼は彼のまま。
――ブリジットに心を奪われていった。そういったところでしょうね。
「ですが……」
私が敬愛していたのは陽気で豪快ながらも、どこまでも民を思い労わる殿下でございました。今のあなたなら、もう。
「アリアンヌ・ボヌール嬢、本日をもって婚約は破棄とする!」
一方的につきつけられて、笑い者もいいところじゃありませんの。そんな私の立場など、考慮する必要もないのでしょうね。
ああ、ざわついてますわね。好奇の目に晒されてもいます。彼らは口々にしています。
――わからなくもない。当然ともいえるのと。
当然、ですって。彼らは……ブリジット様を選ぶの方が当然であると。
ブリジット様は他国の王族にして、寛容な御方。これまでの功績もあるお方。何より、あの殿下が本心からも望まれた方。かたや私は。
高慢で高飛車で、生徒達の諍いにも出しゃばるかのような。
公爵家の娘だからと、大きな顔をしていたと。
「……ああ」
今になって、ですのね。このような時だからこそ、言いたい放題ですのね。
後方にいようと、もう私のいる場所は知れ渡っておりますから。私がどう出るか、観察されているようですわね。
駄々をこねて抗うか、自尊心を傷つけられたかと猛抗議をするか。私がするのは、そのどちらかだろうと。――そう思われていたのでしょうね。
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