前世の少女は語る――ダンジョン攻略にハマったのは②
ブランチも美味しかったし、ユウ君ともちゃんと話せたし。私は本腰を入れてゲームを始めようとしていた、その時。スマホに通知が入ってきていた。
真麻さんからだった。『昼過ぎ頃に遊びに行くから、おしゃれしておいてね』だって。いつも突然訪問なのに。しかもおしゃれって? 街にお出かけするくらいでいいかな。勝負服とかないし。
『まだ時間あるよね』
まだ来ないみたいだし、私はゲームを再稼働していた。とりあえずで始めたのはシルヴァンさんのルート。うん、この人優しそうだし。グロくもなさそうだね。よし、このままプレイし続けよう。
ここで玄関のチャイムが鳴った。ユウ君も出かけたみたいだし、私が出ないと。階段を下りて、私は確認した。モニターに写っているのはうん、真麻さんだ。それと……。
『!?』
男の人がいる。真麻さんから離れた位置にいるけど、男の人だ。私はもしかしてと思った。彼は真麻さんの彼氏ではないかと。いきなりの紹介ともなると心の準備がだけど……ここはどうにか。
『こんにちは、真麻さんに――』
私が玄関を開けると、手を振っている従姉と彼氏と思わしき男性がいた。同じ大学生なのかな、大人びた人。綺麗な顔立ちに奇抜な髪の色。なるほど大学生。
『……っと、従妹の小川結衣です。初めまして』
『へーえ。結衣ちゃん、ね。よろしく。俺は伊織です』
その人が前にやってきた。前に立たれると背が高いなってなる。どこか気だるそうな低音の声。かすかにタバコの匂いもした。
あれ……イオリ? というか、この人って。
『あー……SNSみてくれる子? ありがと。そのイオリです』
『そ、そうなんですか!』
有名人に会ってしまった。わあ、実在してるんだぁ……真麻さんの彼氏さん、すごいな!
『あー……あと勘違いしてそうだから。俺、真麻の彼氏でもなんでもないから』
どこまでも怠そうながらも、その人は私の考えを否定してきた。顔に出てた? 真麻さんも頷いているから、本当に彼氏彼女じゃなかったんだ。ってなると……。
『伊織はさ、私のゲーム開発に協力してくれてんの。アプリ版はほとんど彼!』
真麻さんがドヤ顔で伊織さんの肩を叩いていた。
『え、すごいですね!』
私は目を輝かせていた。真麻さんはますます得意げになっていた。伊織さんだけは平然としていた。
『……それくらい別に。ゲーム自体は好きだけど、分け前寄越してくれるっていうから。だからやってるだけで。つか、すごいのは真麻だし。自分で話とかキャラとか考えてるから』
『はい、真麻さんもすごい!』
それもそうだと、私は真麻さんに憧れの目を向けた。
『……っ』
息を呑んだのは伊織さんだった。どうしたんだろう。
『……はあ、眩しいわ。擦れてなくて』
『へへ、すみません』
青くさいって思われたのかな。それもそうだね。伊織さんからしたら、私は全然子供だろうし。
『ほめるなよーほめるなよー皆の衆! 上がるよっ!』
真麻さんは絶好調だった。そのまま家に上がり込んでいった。
『伊織さんもよかったら』
『あー、それじゃお邪魔しますっと』
ハイテンションな真麻さんと比べて、テンションが低いこの人、伊織さん。あ、そうだ。玄関で靴を揃えている彼に聞いておかないと。
『名字も伺ってもいいですか? 伊織さんって名前でしょ?』
伊織ってどっちでもって聞くけど、この人の場合、名前の方が有力そうだし。名字の方が呼びやすいし、気持ち的に。
『……』
考え込んでいる彼。もしかして変な質問だった……?
『……伊織は名字だよ。だからこのままでいいよ』
『あ、そうなんですね! じゃあ、伊織さんで』
私は良かったと笑った。伊織さんもそう、笑ってくれている。笑ってはいるんだけど……なんだろ、こみ上げる笑いというべきか。
『伊織―、相手は女子高生だぞー、手を出すにしても早すぎだぞー』
真麻さんは居間からひょこり顔を出していた。
『ばっ、ばかっ……! 出すか! 社会的に抹殺されるだろ!』
『へっ! 妙なところで常識人なんだから!』
慌てる伊織さんに対し、真麻さんは遠くから小ばかにしてきていた。大人側からしたら色々あるんだろうな……抹殺?
居間に着くと、伊織さんが手土産にと焼き菓子を持ってきてくれていた。悪いとは思ったけれど、せっかくなのでいただくことにした。まずお茶を淹れようとしたところで。
『結衣ちゃん、ノートパソコン持ってきてくれる? 進み具合確認したくて。それで伊織ときたんだ』
共同開発者だし! と、真麻さんは言う。これはあれだね……テストプレイの報告をせよってことだね……。
『あのね、真麻さん? 私まだ……誰もクリアしてなくて』
嘘、ついてしまった。言っても良かったのに。自分はバッドエンディングしかって。それは良かったけど……どうしてもあの凄惨な光景を、どう説明したらいいかわからなくて。
『そっかぁ。ん、いいよ。結衣ちゃんのペースでやってくれれば』
『そうなの?』
『……そうなの、そうなんだよ!』
確か商品として売り出すって、そう言ってたのに。待たせるのは申し訳ないって思ってたけど、真麻さんは私のペースでいいって。いいのかな……。
『……』
伊織さんがこっちを見ている。何か察したのかな。




