前世の少女は語る――ダンジョン攻略にハマったのは①
『ほんとおいしいね。こんな店があったとは』
今日は久々に陸上部の子たちと一緒に帰った。街に出て、話題のバーガー屋に寄っていった。最近できたんだって。あまりの美味しさに私は感動してしまった。
『でしょー。彼のおススメだからね、間違いなしっ』
友達はSNSで知ったとか。紹介したのはすごく有名な人――『イオリ』という名で活動している。
バーガー屋を出ると、みんな第二の店へと向かおうとしていた。明日は部活が休みなんだって。とことん遊ぼうとしているようだ。でも……もうすぐ夜だから。私はここまでにさせてもらうことにした。
私は彼女たちと別れて、繁華街を抜けて駅に戻ることにした。その帰り道、私は見慣れた後ろ姿を発見した。
彼女は従姉の真麻さん。うちによく遊びに来る、仲良しな存在。あの同人ゲームの制作者でもある。すれ違う人が振り返ったりしている。わかる、おしゃれな美人大学生でもあるから。本人は擬態とか言っているけど。
『あ』
真麻さんの隣には男の人がいた。たまたま隣を歩いているわけじゃなさそう。だって、仲良さそうにじゃれあっている。これはもう……彼氏さんでは?
『ふふふ』
真麻さんったら……真麻さんったら! いつか話してくれるかな。話してくれたなら、それはもうね? いじりまくりましょうかねぇ!
そんなこんなで休日の朝。起きたはいいものの、部屋の中でうだうだしていた私はというと――。
『……やりますか』
ベッドでスマホを触っていたけど、起き上がることにした。腰が重い。机の上のパソコンから圧を感じる。あー、起動しないと……。
私は机の前に座り、パソコンを立ち上げた。合成音声によるタイトルコール。データをロードする。あー、何日前かで止まってる。確か、オスカー君の終盤までいったんだっけ。うん、負け寸前、断罪されるってところで。
『あー……』
私は薄目で画面の中の物語を進めていく。攻略対象によってたかって糾弾されていた。でもアリアンヌ様はへこたれてなくて。窓から逃走を図ろうとしていた。華麗に着地したけれど、待ち受けていたのは処刑人たち。彼らによってアリアンヌ様は無惨にも――。
『ああー……』
これでも、これでもね。最初にやったヒューゴさんよりはマシなんだ。グロいっていえばグロいんだけど……。
私はクリックを連打した。終わった……終わったかな? って、真っ暗な画面に真っ赤な文字で――終って。怖い、怖いって……!
『の、残り二名か……こういうの好きな子は好きなんだろうけど、私はもう――』
ギブです。ギブアップしたい、ギブ。
『ごめん、真麻さん……』
私は従姉に本当の感想を言えずにいた。感想を求める彼女に対し、お茶を濁したような返答しかできなかった。大好きな従姉が心血注いで制作したと思うと、どうしてもだった。
『せめて全員はやろう……バッドだとしても!』
もしかしたら、もしかしたら……! 他の二名は違うのかもしれないし! 新たにプレイだと意気込んでみたけれど――。
ぐうっとお腹が鳴った。朝ごはんまだだった。昼も近いし朝昼兼用にしようっと。
居間には先客がいた。両親は朝から外出だって言っていた。いたのは、義弟のユウ君だった。
『……おはようございます』
ユウ君は私の方を見ることもなく、テレビの方を向いていた。
『うん、おはよ。朝ごはん、パン?』
『はい』
やっぱりこっちを見ることはない。ユウ君はパンをもぐもぐしていた。彼の前に並べられているのは、ペーストタイプのものだった。色々な種類をストックしていた。
『……パン』
バターと、お母さんがデパ地下で買ってきてくれた苺ジャム……真っ赤な真っ赤なジャム。
『……』
バターだけにしよう。私はトースターを開けようとしたけれど。
『……良かったらどうぞ』
『ユウ君?』
『冷蔵庫に色々ありますから。お好きな味どうぞ』
『いいの? ……ありがとう』
ユウ君はこっちを見ていないけど、私が躊躇っていたのがわかったのかな。ここは彼に甘えることにした。わさび味が気になっていたんだ、これにしよう。
『いただきます』
ユウ君は食べ終わっていたけどまだ座っていた。テレビ、面白いのかな。
『うん、美味しい!』
あとからツンとくるけど、それがたまらない! 風味もいいし。ああー、口がどんどんすすむ。
『そうでしょう?』
『……!』
びっくりした。ユウ君はいつの間にかこっちを見ていた。それもなんだろ……こんな優しい顔してるの?
『ジャムなんか食べなくてもいいんです。あんなブチブチしたもの』
『あー、そっか。ユウ君、昔っから嫌いだったもんね』
私はおかしくなって笑ってしまった。ユウ君、基本的に好き嫌いのない子だけど、ジャムだけは無理だって。そっか、大人っぽくなったけど……変わってないこともあるんだなって。
『……姉さん、覚えていてくれたんですね』
『それはもう、ユウ君のことだし』
『そう、ですか……』
ユウ君は俯いていて、どこか顔が赤い。怒ってるとかじゃないよね?
『デザート代わりに、もう一枚いかがですか。シュガーバター味がおすすめです』
『美味しそっ! ユウ君も一緒に食べようよ』
『はい……そうですね』
なんか久々だな。ユウ君とこうして話せるの。パンも美味しいし、こういうのやっぱいいよね……。




