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婚約者だからこそ得られる幸せ。

 小部屋から出た時点でも、私たちは取り囲まれていました。大興奮しながらも祝福の声、納得の声が送られていました。私は一人ひとりに礼を言おうとしましたが、さらに囲まれてしまいます。


「……失礼致します」 

「……!」 


 シルヴァン殿が私の肩を抱いてきました。どきりとしてしまいましたが、自身を戒めます。これも私を守る為でしょう。彼が人避けとなって人混みをかきわけてくださいました。


「お、おーい、シルヴァーン? こっちも大変なんだけどなー?」 


 殿下は殿下で埋もれてしまっています。


「お任せということでしたので。殿下でしたら御自力でどうとでもなりましょう?」 

「いや、シルヴァン!? これ、自力でどうこう……わわっ」


 殿下の方に狙いが完全にいっています。


「シルヴァン殿? さすがに殿下も大変なのでは?」 

「……甘い認識だこと」

「え……」


 騒ぎの中、それでもはっきりと聞こえたシルヴァン殿の声。これだけ密着しているのですから、聞き間違いということもないでしょう。


「急ぎましょう。怪我でもされては申し訳が立ちませんから」

「ええ……」


 人の波もものともせず。シルヴァン殿は微笑んだまま、私を先導するのでした。



 馬車に乗り、公爵家と帰ることになりました。シルヴァン殿と二人、向い合せで座っています。


 イヴは本日会えるものの、ヒューゴ殿やオスカー殿にもお伝えはしませんと。祝福してくださるか……それとも。


「……」


 ……オスカー殿には想いを伝えられた状態ですわね。彼はどう思われているのでしょうか。


「――急なお話で驚かれたことでしょう。あなたのお気持ちも省みずな提案でございました。申し訳ございません」

「……いえ、そのようなことはありませんわ」


 シルヴァン殿が話しかけてきました。私の気持ちを汲んで、そして気にしてくださっているのでしょうか。


「……もう一つ、お詫びしたいことがあります。どうしても……私個人としましても。あらぬ疑いをかけてしまったこと――深くお詫び申し上げます」

「シルヴァン殿……」


 両膝に手を置いて、彼は深々と頭を下げてきました。そう、殿下――それとシルヴァン殿によって、嫌がらせの首謀者とされた件ですわね。


「……」


 あくまで疑ってしまったこと、そのことに関する謝罪でしょう。彼らはこちらが『知っている』とは思ってないでしょうから。


「……シルヴァン殿、あなたは」


 それでも彼が気がかりなのです。シルヴァン殿がとった行動そのものが。


「……お顔、上げてくださいませ。殿下の信頼を得られなかったのもありますから。少なくとも……シルヴァン殿が思うところがあった。そうでしょう?」 

「……アリアンヌ様?」 

「あなたは私を気絶させていた時、なんと仰っていましたの?」 

「……」


 黙秘を貫くシルヴァン殿……そう、それは仰らないのですね。


 私を薬で気絶させていたのはシルヴァン殿でした。結局は謎のままですが、その時の表情で察せられる気がしましたの。思い返せば、あの時のあなたは苦し気でしたわ。

 そして――殿下に物申したのか、離反なさっていたのか。コロシアムに現れることもありませんでした。


 ただ、殿下の言いなりになったわけではなかった。私はそう思えてならないのです。



 帰宅後、シルヴァン殿は学園に戻られました。自分でどうにか出来るだろうと口にしていても、殿下のことを支えられるのでしょう。


「ただいま戻りましたわ」

「おかえりなさいませ、お嬢様!」 


 メイドたちが嬉しそうに私を迎えてくれました。邸内が騒ぎとなっています。厳粛なる公爵家も浮かれずにはいられないこと、再婚約の話が伝わったのでしょう。


「――ああ、お待たせしたわね。アリアンヌ、おめでとう……!」 


 しばらくして母もやってきました。彼女は私を抱きしめてます。


「おじい様やおばあ様もいらっしゃってるのよ。あなたのお父様もそう、応接間でお待ちなの。あなたをお祝いしたいって……本当に安心したって」


 母は抱きしめたまま教えてくれました。私の祖父母までいらしてたのね……彼らは婚約が破談になってから、話す機会も断たれていましたから。王家とのつながりを反故してしまいましたから。


「ここだけよ。私は複雑なの……私だけじゃないでしょうね。あなたのことを大切にしてくださる、そんな殿方だっていたのに」


 私とオスカー殿のこと応援していた家族からしてみたら、なのでしょうか。私の本当の幸せを思ってだとして。


「お母様……いえ。制服から着替えましたら私も向かいますわ」


 そのお気持ちは大変嬉しく思います。ですが、私は承諾しましたの。それも納得の上で。

 時が巻き戻るとわかっていても。殿下に対する不審の気持ちは残っていても。断れる話でもなかったとしても、ここまで嫌な気持ちにならないのは。

 家族も邸に仕える人々も、こうも嬉しそうにしてくれるから。こんなにも喜んでくれる。私はそれが無くなることを知っているくせに、この笑顔を見たかったからこそ――。



 その夜、猛るディディエお兄様や賛同しようとするイヴを宥め、どうにか収束させて。私はベッドで就寝するのでした。


 七月に入りましたから、そろそろ……いえ、明日にでもそうなってもおかしくありません。


「……皆様、笑っていましたわね」


 私はたくさんの祝福を受けました。殿下との未来はこんなにも歓迎され、祝福されるのですね。

 私と殿下の間には愛などない。それでも、彼との未来は幸せをこんなにももたらしてくれる。誰もが納得のいく未来なのだと。


「すうすう……」


 私は幸福に包まれるかのように、眠りに落ちていきました――。




お読みいただきまして、ありがとうございました!

明日も続きを投稿予定です。

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