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飾られた絵画。

「……ええ、そうですわね。『今だけ』」


 殿下は御存知ないのでしょうね。この気まずい再婚約も――巻き戻って無くなってしまうのだと。殿下と私では意味合いが違ってくるのでしょう。


「謹んでお受けいたします。光栄であると存じますわ」


 思うところは沢山あるけれど、私は蓋をすることにしました。


「……すまない、アリアンヌ」


 それは殿下もそうなのでしょう。色々思うところがあるのは、お互い様。


「……食べるか。っていってもなぁ、冷えてるよな。作り直させるか?」 

「いえ、私の分はこのままでよろしいですわ」

 殿下は食事をとられることにしたようです。私はこのままでも結構ですが、殿下は作り直してもらった方が良いでしょうね。私は待つことにしましょう。


「そうか。じゃあ、食べるとするか!」 

「殿下はよろしいですの?」 

「よろしいんだよ。せっかく丹精込めて作ってくれたのにな……悪いことした」

「……そうですの」


 シュンと肩を落とされた殿下。彼のこういうところがあるからこそ、私は憎みきれないのでしょう……。

 昼休みが終わってしまいましたが、私たちの昼食会は続いていました。


「うむ、美味しいな! 旬の食材もふんだんに使われている」


 殿下も伝えられたからか、安心しきったお顔です。食欲もすすんでいるようです。ここ最近やつれてましたものね。


「……」


 このまま何事もなく終わりそうです。殿下はあくまで大事な話を早くしたかったから。このような密室に呼んだに過ぎないと――。


「――ときにアリアンヌ」

「!」 


 雑談途中での鋭いお声。殿下、ここからが本題ですの……? 


「俺が部屋に入った時、何かを見ていたようだが」

「……そちらですわね。それはですわね――」


 私は脱力しかけました。かなり深刻なご様子でしたもの。実際は無難な内容でした。


「絵画を拝見しておりました。特にあちらに飾られている絵でしてよ。心温まるものでございました」


 私が指し示した絵画、殿下はへえ、と笑われました。


「そうかぁ、気に入ったのか。なんだったら持って帰るか、アリアンヌ?」 


 殿下がさらりと提案してくださったところ。


「殿下!?」


 声を荒げたのは――シルヴァン殿でした。どうしてシルヴァン殿が……? 


「なんだよぉ、シルヴァーン? 誰かさんがいらないっていうなら、誰にあげたっていいだろー?」 

「それは……はい、殿下の仰る通りではございます」

「だろだろー? こんな密会目的の場所に飾るよりかは――」


 あ、と殿下は口を手で覆っております。ええ、大層わざとらしいこと。そんな殿下も大概ではあります。


「……シルヴァン殿」


 私は正直、苦しそうなシルヴァン殿の方が気になりました。おそらくではありますが――本来はシルヴァン殿に渡るものだったのでしょう。それを拒否した結果、殿下の方で預かることになったのだと。


 そうして私に渡そうとしているのが殿下であり。


「殿下、お気遣いありがとうございます。願わくば、こちらの素晴らしい絵は多くの方に触れていただきたく存じます。それこそ――色々な方に」

「……アリアンヌ様」


 私は殿下、そしてシルヴァン殿にそう伝えました。私の部屋で丁重に飾るのも良いですが、こちらの方が――シルヴァン殿、あなたが見られるでしょうから。


 絶えず笑顔のシルヴァン殿が動揺してしまうほど、こちらの絵画は何かあるのでしょうから。手元には残しておけない、それでも切り離すこともできないと。ならば、現状維持で良いではありませんか。


「……ふーん、なるほどねぇ」


 殿下は両腕を組んで、何かを考えておられるようです。お受け取りした方が良かったのかしら……いえ。


「私の我儘でございますが、お許しくださいませ。お許しくださいますわよね……殿下?」 

「お、おう……も、もちろんだぁ! あー、可愛い我儘だなぁ、まったくぅ!」

 

 私はあくまで笑顔で穏便に、そう殿下にお願いしました。殿下もたじろぎつつも承諾してくださいました。解決ですわね。



 食事も終え、授業に戻ろうと思いましたが。


「……シルヴァン」

「はっ。アリアンヌ様、本日は早退した方がよろしいかと存じます」


 手を叩いた殿下に代わって、シルヴァン殿が提案してきました。彼は事情も話してくれるようで。


「先程の殿下の呻き声には、『ああ、婚約破棄撤回してもらわないとー』や、『プロポーズだぁ、絶対に失敗できないぞ……』と。そういったものも含まれていました。もう広まっているも同然でしょう」

「さ、さようでございますか……」


 シルヴァン殿が寄せる気のない口ぶりで再現してくださいました。殿下も手を叩いている場合ではなくてよ。あなたの呻き声から漏れているではありませんの。


「……えへ?」 


 私のもの言いたげな視線を察したのか、殿下はまたしても舌を出して笑っていますわね。


「と、とにかくだ! 俺の方で残っておくから。俺に任せとけっ! アリアンヌはシルヴァンにでも送ってもらうといい。馬車も待たせてある」

「はい、手配は済んでおります。イヴ様にもこちらの方でお伝えしておきますので」


 いつの間にそこまでやってくださっていたのね。


「……ええ、よろしくお願いしますわ」


 大騒動になっている可能性もありますものね。ここはお願いすることにしましょう。


 皆様、返事までは御存知ないでしょうに。それでも確定事項といっていいものでしょうね――再び婚約者となったということは。



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