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オスカー、立ちはだかる。


「アリアンヌ様。お迎えに上がりました」


 昼休みを告げるチャイムから少しして、シルヴァン殿が来られました。二学年上の彼の教室からは距離もおありでしょうに、涼しい顔をしてますわ。


「ええ、お願いしますわね」


 私はシルヴァン殿と共に、殿下の元へと向かおうとしたところ。


「……あっれー、なんでシルヴァン様が?」 

「オスカー殿?」 


 私を覆う影、背後にいるのはオスカー殿ではありませんか。こう、警戒心丸出しでありますわね。


「――これはこれはオスカー様。厳密に申しますと、私ではありません。我が主、エミリアン様の用命によるものです」


 シルヴァン殿は笑みを絶やしません。より険しくなるのはオスカー殿です。


「……おかしくないですか? もう婚約破棄してるっていうのに」


 オスカー殿は当然といった疑問をぶつけています。いつの間に私の前にも立っていますわ。それこそ守るかのように。


「……」


 黙られてしまったのは、シルヴァン殿。彼は観察しているかのようです。主にオスカー殿のようですが、私も落ち着かないものですわ。


「ああ、失礼致しました。主も崇高なるお考えのもとなのでしょう。いずれにせよ殿下からの命でございますので、アリアンヌ様はお連れします。御承知くださいませ、オスカー様」


 剣呑とした目を向けられようとも、シルヴァン殿は構うことはないようです。彼はどこまでも優雅でありました。


「オスカー殿。私も既に承知しておりますから。ご配慮は感謝しますわ。行って参りますわね?」

 

 波風を立てるわけるわけにも参りません。私は心配もかけたくなかったので、笑顔で振る舞いました。


「……そっか。大丈夫ならいいけど」

「ええ、ご心配なさらず」


 オスカー殿は納得してくださったようです。そうですわね、平和的な解決と。


「ええ、オスカー様? アリアンヌ様は皆様方のご同伴も遠慮されてますから。それもまた、御承知の上となります」

「シルヴァン殿!?」


 あなた、そちら言う必要ありますの? 話がまとまっていたというのに。


「……え、なにそれ。同伴していいってなら、俺ついていきたい!」 

「オスカー殿、お気持ちは有難いですわ……! ですが、危険も何もありませんから」


 ああ、拗れてしまいました。オスカー殿とて案じるからでしょうに、どうしてシルヴァン殿は掻きまわすようなことを――。


「……ふっ」


 ……? 今、シルヴァン殿、笑われました? またしても私の見間違いでしょうか……? 


「いやいや、だって密室じゃん。というか『例の部屋』じゃん……?」 


 まだ納得がいかないオスカー殿でしたが、急に彼の顔は赤くなりました。しどろもどろにもなっています。オスカー殿、どうなさったのでしょう。


「ええ、食堂の一室にある別部屋――婦人を口説き落とすには絶好の場所と。エミリアン様が愛用されている場でございますね」

「シルヴァン殿!?」

「シルヴァン様!!」 


 ズバリとした内容過ぎるシルヴァン殿の発言、私もオスカー殿も強く反応してしまいましたわ。声まで揃ってしまいましたのね。


「あ、違うわ。ぶっちゃけるシルヴァン様もだけど、殿下がアレじゃん……」

「確かに……」


 そうですわね、オスカー殿の言う通りです。主の赤裸々な事情を話すのも大概ですが、そもそも殿下がですわね。


「ああ……」


 私、存じませんでしてよ? あなた、婦人を連れ込んでいたのですね? そうやって良い感じに持っていってたのですね……! ああ、頭がくらくらしますわぁ……。


「とにかく参りましょう……殿下をお待たせするわけにも、ですもの」


 私は目の前が眩みつつも、今度こそ食堂に向かおうとしました。


「いえ、アリアンヌ様。主は遅れてくるようです。恐縮でございますが、私と二人でお待ちしていましょう」

「……お二人で、ですの」


 というか、殿下は遅れてやってくると。その間、シルヴァン殿と二人きりですの? ――密室で。


「……誠に申し訳ございません。私は外にて待機しておりますので」

「いえ、そんな……」


 本当に申し訳なさそうな顔、シルヴァン殿がされています。相手は紳士、王の側近でもある方ですわ……いくら気まずかろうと。


「いいえ、シルヴァン殿? 二人でお待ちしていましょう?」 


 若干ひきつる顔は隠せないながらも、私は笑顔で応じることにしました。


「ご配慮痛み入ります、アリアンヌ様……主より、丁重にもてなすよう承っておりましたので」

「まあ……」


 シルヴァン殿は相手役も命じられていたようですわ。彼にも立場がありますものね。


「では、オスカー殿。失礼させていただきますわ」


 会釈するシルヴァン殿と共に、私は今度こそ殿下の元へ――。



お読みいただきまして、ありがとうございました!

明日も続きを投稿予定です。

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