表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/438

不思議な主従関係。


 しかし、殿下の御用とは? コロシアムの件から私を避けておいでですし、予想した通り、ブリジット嬢の面影を求めてでしたか。


「殿下、差し出がましいことをお詫びいたします。私は戻らせていただきます――」

「ま、待ってくれ! 君に用があるんだ!」 

「私でございますか……?」 


 私は制服のスカートの裾をつまんで挨拶をしようと、その時でした。殿下からのお声があり、しかも相手が私だというのです。なんとも驚いたものでした。


「……はあ、やっと言えた」


 殿下は殿下で胸を撫で下ろしているではありませんか。シルヴァン殿も腰に手をあてて、溜息を一つ。やれやれと――。


「……ん?」 


 ……シルヴァン殿? 私の空目でしょうか。あまりにもいつもの彼、繊細な物腰な彼とは違いますものね。ええ、気のせいでしょう。ほら、優雅な佇まいですもの。気のせいね。


「私でしたのね。ええ、お聞かせくださいまし」

「……だがな、アリアンヌ!」

 

 狙ったかのようなタイミングで、鳴ったのは予鈴でした。


「ふ……予鈴なんだな? 俺には読めていたぞ?」 


 ほらな、と殿下は得意げです。すっかり調子を取り戻してますこと。


「かしこまりました。では次の休み時間、殿下の教室まで伺わせていただきますわ」

「いや、それは困るっ!」

 

 殿下は両手を振って焦っておいでです。人前では話せないこと? 


「……よし、そうだ! アリアンヌ、昼だ、昼休みにしよう! シルヴァンに向かわせる」

「ま、よろしいですの?」 


 私がシルヴァン殿を見ると、彼は恭しく頭を下げてきました。ここは甘えることにしましょうか。


「……人目は避けないとだからな。シルヴァンもいるが、密室になる」

「密室……」


 この人たちと密室。


「……アリアンヌ。誰か一人くらいなら、同伴させても構わない。君のイヴ殿でも。ヒューゴ殿でも、オスカー殿でもいい。そこは……譲歩する」

「……殿下?」 


 随分と具体的にお名前が出てきましたのね……? 現時点でヒューゴ殿の名まで出るとは、仲が良いと思ってくださっているのでしょうか。


「……誰かを同席させる」


 そうですわね、その方が私も安堵はしますでしょう。殿下もそう仰っているのですから。ですが――。


「……むしろ、そうしてくれ。申し訳ないことをした。俺は君に酷いことをした。信頼を欠くようなことを」

「……」


 殿下はこんなにも俯いて、罪に苛まれているようで。私は殿下をどこまで信じればよいのでしょうか。それは今もわからないまま。


「……殿下。あなた様が疑うのも無理のないお話、そうでしたでしょう? 殿下からの信頼を得なかったのは私ですから。私からしては……」


 あなたを信じる。あなたを疑わない。それを口にしては、安っぽくも嘘っぽくも聞こえてしまうことでしょう。私はやはり、警戒はしたままですから。そうではあっても。


「殿下は民の前をもって――私を解放してくださったのですから」


 私はこの人のことはわからないまま。それでも――約束は守ってくれたのだから。こうしていられるのもそう。


「そのような御方ですもの。私、彼らに同伴をお願いしたりしませんわ」

「……」


 私は微笑んでそう答えました。殿下はしばらく黙っておいででしたが。


「アリアンヌ……アリアンヌぅぅぅ」

「きゃっ!?」


 殿下の瞳から大量の涙が、ぶわっと流れてきました。大粒のそれは止まること知らず。しかもです、私にまで抱きついて縋ろうとしていませんこと!?  スローモーションのように迫る殿下、避けれる速度ではありますが、そういうわけにも――。


「――殿下。

相手はご婦人です。ご自重くださいませ」

「んぐっ」


 なんとも見事なのでしょう。シルヴァン殿が早業で殿下の首ねっこを掴んでますわ、再び。


「うん、ちょうどいい。このまま連れて帰りましょうか」

「はーなーせー、シルヴァーン!」

 

 満足そうなシルヴァン殿は、抵抗する殿下をもとのもしません。


「では、アリアンヌ様。昼には迎えに参りますので。失礼させていただきます」


 何事もなかったかのように、優雅に笑んで殿下を連れていったのでした。


「ええ、お待ちしておりますわ……?」 


 呆気にとられた私は、遅れて返事をしていました。もう聞こえない距離のはずかと――。


「!」 


 シルヴァン殿は振り向きざまに微笑みを向けてきました。会釈をした後、殿下を連れていきます。ますます遠のく彼ら。あなた、聞こえていて……? 


「……不思議な方々」


 王太子と側近という関係でありながら、こう、親しみがあると申しましょうか。コロシアムの件で殿下側が寛容になったかというと、そうではなさそうですわ。どうやら前からのようでしたもの。

 本当に不思議な関係ですのね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ