聖女の登場――誰もが彼女に夢中。
いつもながらの優雅なる一日。朝が始まりを告げる。ああ、今日も健やかに過ごすことにしましょう。
朝の登校風景も、凛とした空気も。厳かな気持ちにさせてくれますわ。イヴと共に校舎へと向かっておりました。
「……?」
なんでしょう、騒がしいですこと。いつもの修羅場とは異なっているよう。戸惑い、そういった要素が大きいようですわね。
「……」
私の心臓がドクン、と鳴った。どんどん鼓動は早まっていく。どうして。
どうして、落ち着いてくれないのです。
廊下の奥から、小柄な女子生徒がやってきた。亜麻色の髪を、二つ結びにした少女。
制服に着慣れてないのか、服の裾をしきりに掴んでいる。心細そうな――庇護欲を駆り立てるような少女。
「……なに、うちの生徒?」
「……本当? 今の時期って転入生ってこと? どういった経緯で?」
生徒達は目にみえて動揺していますわ。
その瞳はつぶらであり、吸い込まれそうな琥珀色の瞳をしていること。イヴにも似た瞳。やわらかそうな頬は朱をさしており、厚めの唇も艶めいている。これで化粧はしておらず、天然というのですから。
柔らかな体も、抱きしめた感触はさぞ心地よいことでしょう。殿方達がだらしない顔をしていたこと、私は覚えておりますからね。
外見のみならず、内面もまたそう。慈悲深さや、心配り。おっとりとしていても、意思は強い。それでいて、相手を立てる時は立てる。何より。
――相手が一番言ってほしいこと。望むことをしてあげられる。
「……彼女が」
モヤがかかった頭が晴れていく。このタイミングになって、私は思い出したのですから。
「ブリジットだというの……?」
転生の前に、ユイが友情を交わした少女。そして。
このゲームのライバル的存在の彼女の名もまた――ブリジットだった。
姿も声も、まとう雰囲気も。一致し過ぎるほど。
「……なんてこと。けれども……合点もいきますわね」
そう、一致していたのです。どちらのブリジットもまた――人に寄り添い、人の心を奪っていたと。
「……」
私、なんてことないって顔装っておりますけれど。実は汗が止まりませんの。特に背中が凄いことになってますわ。なんてたって――ブリジットの出現時期が早まっているのですから。
イレギュラーが発生しているのですから。なんてことなの……。
「――ああ、貴女は。また、お逢いできたのですね……ブリジット」
彼女に吸い寄せられるように――彼が現れた。ゆっくりと彼女――ブリジットに近づいてくる。
ああ、必然と言えるのでしょうか。
「……ヒューゴ様?」
おずおずと顔を見上げる。身長差がおありだから、自然と上目遣いになるのでしょうね。
「……ああっ!」
まあ、ヒューゴ殿がくらりとしておりますわ。それを心配して焦っているのが彼女。それ、単にあなたにノックアウトされただけですわよ。ええ、おそらくですが。
「そうでしたわ……」
このお二人は元々知り合いということでした。ブリジット激似の件で、動揺している場合ではありませんわね。
ヒューゴ殿と彼女は、前回も相思相愛になられましたもの。あの二人がくっつくのが道理というのなら、それは致し方ないのでしょう。




