次の攻略対象は、陥れようとした相手……?
「さあ、残り二名ですわ。王太子殿下に――」
我が国の王太子――エミリアン・セラヴィ・ドゥラノワ様。私の婚約者であらせられる方。
「……シルヴァン・フーフォル殿」
そして、王太子殿下の側近のシルヴァン殿。彼はここ数年から殿下にお仕えしてますわ。昔からではありませんわね。どのみち優秀な方には相違ないでしょう。殿下への忠誠心もそう――。
「……はあ」
溜息をついたイヴが渋い顔をしています。みるからに気が進んでいませんわ。ですが、それも理由があってのこと。
それは私にかけれられた嫌疑からのコロシアムでの公開処刑という一連の事件。とある少女の『聖女』への妬みによること、それが原因だと思われていました。ところが実際は違っていて。
『その少女もまた、利用されていた。駒に過ぎなかった――裏で手を引いていたのは、エミリアン殿下だ』
独自に調べてくれたイヴによるものです。殿下とシルヴァン殿、二人が暗躍していたというのです。
私と婚約破棄する為に――それを望んでいたのだと。
「ええ、そのようなお二方ではありますわね……」
私を陥れようとした二人、それでも私が気になったのはシルヴァン殿でした。
『殿下、落ち着いてください。アリアンヌ・ボヌールの話も聞かれては?』
学園の会議室にて問答が行われていた時、こうやって殿下を諫めたのはシルヴァン殿でした。
確かに私を連行しようとした時、気絶させたのはシルヴァン殿です。だけれども、何かを言い残していたのです。そちらを聞き取れなかったのが悔しいところでしてよ。
それからのシルヴァン殿は殿下と行動をしておらず……ああ、考えるほど混乱してきましたわ。
「そうでしたわ……」
私、お二人は攻略したことがありませんのよ。彼らに関する情報もそう。この世界で生きて見知ったことくらい。あとはそうですわね。
『シルヴァンはね、とにかく大人なのっ! 落ち着いた物腰にときめいて、ねっ?』
こちら、従姉のアドバイスです。興奮のあまり早口になるのはご愛嬌、ゲームの創造主の言葉ですから。そちらも参照させてもらいましょう。ええ、シルヴァン殿は大人、と。
「時間、巻き戻るんだっけ」
「はい、その通りですわ」
前は七月に入った頃ででしたの。今回もそうである可能性が高いですわ。
「……そっか。僕も忘れるって話だっけ。でも――この書があるから」
以前のイヴもそう。今回のイヴも覚えている限りを書き尽くすことでしょう。分厚くもなりますわね。私のサポートもしてくださるのですから、頭が上がりませんわ……。
私もそうですわ。ただ大人しく訪れを待つだけではありません。
「ええ、よく存じない方ではあります。ですが、知っていけばよいことでしょう。私はおそらく、シルヴァン殿と親交を深めていくことになるかと」
消去法と言われたらそれまで。ですが、彼のことが気になるのも確かなことなのです。
「……はい」
イヴは目を伏せながら、小さく頷いていました。彼の長い睫毛が影を作っておりますわ。切なさがこちらまで伝わってくる憂い顔。
「イヴ? あなたが心配になるお気持ちも理解はわかりますわ。私を嵌めようとした方々ですものね。それでも彼らと親交を深めること。思惑というよりは、お考えが理解できるかもしれませんわ」
あなたに心配させるような状況だから、だからイヴはそのような顔をしているかと。私はそう思っておりましたが。
「それもあるけど……それだけじゃない。ごめん、これは僕の心の問題なんだ」
「……話しづらいことですの?」
「はい」
「……そう」
イヴにはっきりと答えられてしまいました。彼は自身の胸元に手を当てています。自身の心内を決して明かすまいと。
あなたとは長年の付き合いですが、お互い成長もしましたものね。目の前のあなたがわからなくなることも、きっとあるのでしょう。それは私もそうだから。
「……」
私もそう、イヴには伝えてないことがあるのです。この世界がゲームの中であるということ。こちらは何があっても私の胸に秘めておきますわ。
そして残り二名とエンディングを迎えた時――私が、結衣がこの世界から消えるということ。本物のアリアンヌ様に意識をお返しすることになること。
イヴに限ったことではない。私もそうだから。




