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武闘派兄妹。


 私達は屋内の訓練場に移動し、兄がさっそく木刀を二人に放り渡していました。二人同時に来いということなのでしょう。現役軍人ですものね。

 先手で仕掛けるオスカー殿は、兄と良い勝負をしています。ヒューゴ殿もまた、剣の訓練は受けていたのでしょうか。筋が良いと兄は感心しておいでです。


「あああ……」


 皆様の力と力のぶつかり合い、それを椅子に座って眺めている――私でございます……! 


「なんて羨ましい……!」 


 私は声には出さずにはいられないほど、心底羨ましがっていました。ああ、私も加わりたい! その木刀で武力をぶつけ合いたい! 戦いたい! 


「……なんてね」


 私は淑女ですわ。ええ、淑女淑女。


 コロシアムの一件で両親が睨みをきかせていますもの。無事で良かった、私も戦えたからといった点はあったとしても、親心として心配なのでしょう。その御心、理解はしているのです……。


「――ふむ。及第点といったところか」


 兄は中断しました。お二人は膝をつくことはなかったのです。兄は感心しているようです。


「まだ時間もあるな。次は一対一で参ろうか」


 兄は息を切らすこともなく、サシでの勝負を望んでいました。良い勝負をしていたといえど、お二人は荒い呼吸を繰り返していました。


「はあはあ……ええ、よろしくお願い致します」

「やっぱつえぇ……望むところです!」 


 ヒューゴ殿もオスカー殿も。目を輝かせておりました。ええ、お気持ちはわかりましてよ。ええ! 


 それから小休止といったところでしょうか。彼らが水分補給をしている間、兄は私の元へとやってきました。


「……すまないな。お前もやりたくなってしまったか」


 兄は申し訳なさそうでした。見学させたことによって、妹の闘争心に火をつけてしまったかと。


「はい」


 私は正直に答えました。世間に武闘派令嬢と知られる前から、兄は私がこうしたことに興味があったことをわかっていたのでしょう。


「軽い打ち合いくらいなら……でもな、その可憐で天使で妖精なドレス姿だとな」

「形容している内容はさておいて。ええ、ドレスですものね―ですが、お兄様? 軽い打ち合いでしょう? 私はドレスのまま、淑女として戦いますわよ?」 


 私は長い髪をハンカチでまとめ、たてかけてあった木刀を手にしました。息も荒くなってきましてよ、興奮しておりましてよ、それでも淑女でしてよ! 


「おお、アリアンヌよ……」


 お兄様も若干引き気味でしてよ? 


「……うむ。コロシアムの件は耳にしている。だがな、我が妹は己の武力でこそ守りたいとも」


 お兄様、迷われているのかしら。


「アリアンヌ様―、俺が相手しようかー? もちろん、かるーくね?」 


 頭から水を被ったオスカー殿が言ってくださいました。ああ、頭を振ってますわ。水飛沫がヒューゴ殿にかかってましてよ。


「む! 貴公に任せてなるものか! 妹愛をもって、誓って怪我をさせまい! さあ、アリアンヌ! いつでもかかってくるがよい!」 


 兄は一気に変わりました。ともかく、私の相手をしてくださるとのこと。


「お兄様、感謝いたしますわ。でも、参りますわよ!」 


 軽く、でしたわね。軽く。


「はっ」

「はははー、アリアンヌー、それー?」 


 そよ風のような私の一撃。それを兄上は笑顔で受け止めてくださってます。


「まっ、お兄様っ! 続けて参りましてよっ」


 兄からも返しに私もそれを木刀で受け止める。また一太刀を。兄も戯れといった感じで返してきて、私もまた――それの繰り返し。


「ふふっ」


 ああ、楽しいこと! オスカー殿に限らず、私とてそうですわ。雨季で馬の遠駆けが出来ないのは堪えておりましたもの。こうして体を、動かせるのは、やっぱり違いますわ、ねっ! 


「アリアンヌ……?」 

「まだまだ参りましてよ!」 


 私たちの打ち合いはおのずとして激しくなっていく。お兄様、私はあなたについていく側ですが、楽しいですわっ! 木刀がぶつかる強い音、力もそう。一撃一撃が重くなっていく。


「ほほほ、おーほほほほ!」 

「ア、アリアンヌ……??」

 

 お兄様? 笑顔がなくてよ? 楽しい打ち合いでしてよ? 楽しくありませんの? 


「!」 


 バキっ! 互いの木刀が打撃によって割れてしまった。そのまま地面に落とされた。


「……」


 無言のヒューゴ殿や。


「……すっげ」


 感嘆の声を漏らしていたオスカー殿。


「あ……」


 木刀の破壊……やってしまいましたわ。私は夢中になっていたようでした。兄との打ち合いにのめり込んでいましたわ。


「見事なり、我が妹よ。可愛い上に強い、お兄様どうしよう」

「……ありがとうございます?」 


 お褒めいただいたのかしら? 私たちは握手を交わしました。


「……アリアンヌ」


 私は兄に掴んだ手のまま引っ張られてました。彼はこっそりと耳打ちをしてきたのです。


「お前の武はまっすぐなものだ。それでいて力強い。だが、過信はするでないぞ」

「はい」


 私は深く頷きました。ええ、慢心はよろしくありませんわね。脳筋ひゃっほいするきらいがありますので、気をつけませんと。


「……そう、まっすぐだ。ゆえに絡め手にどう対処するかだ」

「お兄様?」 


 私は目を見開きました。絡め手、それは――。


「お前のまっすぐな武を尊重したい――故に、お前を守ってくれる存在があればな」

「私を……」


 お兄様なりの助言なのでしょう。私は受け入れようとしたところ。


「お兄様! 俺が守りますから!」 


 びしっと挙手したオスカー殿。聞こえていましたのね……ああ、兄が険しい顔をしていますわ。


「お言葉ながら、ディディエ様。妹は己の武力でこそ守りたいと、仰っていたではありませんか。第三者に頼らずとも」


 淡々と指摘するヒューゴ殿。あなたにも聞こえていましたのね……ああ、兄がいっそう険しい顔つきとなりましたわ。



 その後、私は見学に徹することにしました。彼らの打ち合いを見ながらも、私は自身の手を見つめます。


「……私は」


 力はパワー。脳筋上等、それは変わりませんわ。でも、兄の言う通りでもあります。相手はどんな手を使ってくるかもわかりませんから。これまで対峙してきた相手もそうでしたから。


「……」


 これから立ち向かう相手もまた――。



 この稽古場のことは私たちだけの秘め事となりました。お茶会の場にいたメイドたちへも口止めしましてよ。ええ、両親、特に母にバレるわけには……! 笑顔で威圧されましてよ! ああ、怖ろしや怖ろしや……。


 本日で六月も最後。じきに雨季も終わることでしょう。



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