兄、襲来。
「……あら?」
部屋にノック音、どなたかしら。
「――アリアンヌ、お兄様だっ!」
私には兄が二人いますが、このテンションの高さ、あちらのお兄様でしょう。
「――ディディエお兄様ですわね? どうぞ、お入りになってくださいまし」
私は立ち上がり、来訪者を迎え入れることにしました。
「……お兄様」
「お兄様っ!?」
ヒューゴ殿もオスカー殿も即、起立しました。
ええ、私の兄であるディディエ。齢二十ですわ。我が公爵家の次男にして、国軍の軍人でもありますの。『鬼のディディエ』として名を馳せておりましてよ。お二方、緊張させてしまったかしら。ですがご心配なく。
「逢いたかったぞ、アリアンヌ―!」
「まあ、お兄様ったら」
部屋にやってきて開口一番。お兄様は大はしゃぎで私の元までやってきては、頬ずりをしてきました。すりすりがまだ続いておりますわ。実際はこうも気さくな殿方でしてよ。
「……」
「……」
お二方はぽかんとしていますわね。驚くのも当然といえましょう。私もそうですもの。
ゲームプレイ時には鬼軍人という情報しかなく、まともな登場シーンもありませんでしたから。金色の総髪の凛々しいお姿が……こうも締まりのない顔になるなんて。妹に甘い方でしたのね。
「お兄様……このへんで、ね? お客人、みえられてますから」
「むっ……そうだった」
兄は顔を引き締め、お二人を睨みつけていました。お兄様……お客人でしてよ?
「我はディディエ・ボヌールと申す。アリアンヌにとっての愛しのお兄様である!」
ほっ。兄は普通に挨拶をしてくれました。あのお二人ですから。穏便に――。
「……愛しの」
「愛しの?」
何故です。彼らは何故、眉をぴくりとさせたのです……。
「……失礼いたしました。私はヒューゴ・クラージェと申します。アリアンヌ様には平素よりよくしていただいておりまして」
それは一瞬のこと、ヒューゴ殿は何事もなかったかのように挨拶をしました。
「貴公のことは存じている。無論、オスカー・フェル殿のこともだ。よく調べさせてもらった。よーくな……」
兄は目を光らせていました。射抜くのような目ですこと。威嚇としては十分なものでしてよ。ああ、どうしたものかしら……。
「え、お兄様? 俺……私も自己紹介したかったのですが。今からでもさせてくださいっ!」
いえ、屈してなどいませんわね。オスカー殿は何てことなく、逆に頼み事までしていますわ。平然としているのはヒューゴ殿にもいえたことでした。なんたるメンタル……!
「な、なんだ貴公は! 必要ない、なんか嫌だ、断る!」
「そんなぁ。最初が肝心ですし、名乗らせてくださいって。ご両親ともですけど、お兄様とも仲良くなりたいんです」
「断るっ! 我は父や母のようにはいかないぞ! 最後の番人で在り続ける!」
距離を詰めようとするオスカー殿を、鉄の意思をもって拒むディディエお兄様。
「えー……お二人が認めてくださったのに、思わぬところでかぁ」
私の両親とはあっさりと打ち解けたオスカー殿も、兄には苦戦していると苦々しい顔をしていました。
「ええい、認めたとかいうな! あと、我は番人と申した! 最愛の妹、アリアンヌの伴侶として相応しいのか……我は見極めるまでよ!」
「お兄様……? お話を進めないでくださいまし。今回は私がお世話になったということで、招いたお二方です。伴侶はいささか話が発展過ぎてませんこと?」
兄相手であれど、ここは申し上げませんと。ほら、お二方も黙り込んでしまってますから。お困りなことでしょう。ほら――。
「……へえー? 認めてさえくださればってことですか? 受けて立ちたいですねー?」
「オスカー殿!?」
好戦的なオスカー殿ではありませんか! 本気でぶつかりでもしたら只では済まないかと……!
「……ふむ、よかろう。あとで後悔するなよ? して、ヒューゴ殿? 貴公はどうされるのか」
いえ、お兄様? オスカー殿どころか、ヒューゴ殿にまで話をふられますの?
「お言葉ながら、ディディエ様。最終的には父君がお決めになるのではありませんか?」
マジレスですわね、ヒューゴ殿。その通りではありますわね……ええ。
「……ふむ」
ああ、お兄様も考えこまれてしまいましたわ。これで話は片がついたのでしょうか。
「それはそれ! これはこれ!」
なんと、兄は堂々と言い切りましたわ! 彼は続けます。
「この我を負かすほどの武人なれば、いくらでも力添えをしてみせよう! よし、オスカー殿。邸内に訓練場がある。そちらに向かおうぞ。アリアンヌもヒューゴ殿も見学に参られよ」
「……私も見学と?」
……私でははなくてヒューゴ殿のご発言です。彼はなんとも納得のいかない表情でして。
「そうであろう? 武が云々ではない、貴公は乗り気ではなかろう」
「……いいえ? 私も乗り気ですが?」
ヒューゴ殿は苛立っているようです。ええ、前にもありましたわね。この剣呑とした目つき、面白くのなさの極み。伴侶どうこうではないでしょう、ええ、そうなのでしょう。
「ああ……」
あれだけの和やかなお茶会が、兄の乱入によって一変。正装だろうとお構いなし、漢と漢のぶつかり合いになってしまったではありませんか。そんな、そんな……!




