父選抜のお茶会。
「……おほん。私もおりますので」
ヒューゴ殿は咳払いを一つ。彼は気まずそうにしておられます。
「ええ、もちろんですわ! ヒューゴ殿、オスカー殿。急なお誘いでありましたでしょうに、お越しくださいまして、ありがとうございました」
私は改めてお礼を伝えました。お二人は嫌な顔をすることもなく、それどころか微笑んでくださいます。ああ、有難きこと。本当に急でしたもの。
本日のお茶会は父の提案によるものでした。お二人を指名したのも父です。私のことを気にしてくださってのことでしょう――婚約破棄をされてしまった、娘のことを。
私にとっての運命の日――五月末日。私は彼らのご助力もあって、危機を乗り越えることも出来ました。
彼らの力があったからこそ、父はそこに着目したようです。もとよりオスカー殿のことは御存知だったようですが、ヒューゴ殿のことも調べたのでしょう。私との交流という名目でお二人が招かれたのですわね。
「いいっていいって。俺、大歓迎だし!」
オスカー殿は満足そうにしています。満面の笑みとも言えますわね。
「私もお誘いいただきまして、ありがとうございました。一連の事件も解決したようですし、平和な日常も続きそうですね」
ヒューゴ殿もお嫌ではないようですわね。ええ、一連の事件が……。
「オスカーの活躍もそうですが、貴女のことも結局バレてしまいましたね」
私が考えに落ちるところで、ヒューゴ殿が話を切り出されていました。いけません、お話に集中しませんと。
「……ええ、そうですわね」
私がコロシアムで大暴れした五月末日のことです。オスカー殿の活躍が注目され、私のことは露見されないかと思っていたのに。ある日をさかいに広まってしまったのです――私が武闘派令嬢であると! 事実ではございますが……!
ああ……眩暈で倒れそうになった両親の姿、今も鮮明に思い出しますわ。
「でもさ? 結構かっこいー、って憧れてるよ? 実際そうじゃん? かっこいいじゃん?」
「まあ、オスカー殿!」
オスカー殿のキラキラとした瞳に、私の気分もつられるように浮上してきました。
「俺もそう思うよ。いいと思う、強い令嬢がいたってさ。脳筋だし、ゴリラだけどさ? 俺はちゃんと好きだから」
「……」
えへへ、と照れていらっしゃいますけど……オスカー殿?
「いいえ? 私も成長しますからね? 脳筋もそうですし、ゴリラも受け入れられるようになったのです。ええ、逞しき彼らに例えてくださるなど、名誉ではありませんこと? ほほ、おほほほ! おほほほほほほほほ!」
もはやヤケクソといえましょう。私は高らかに笑いました。
「まあ……冥利につきるのでは? どんなあなたでも受け入れてくれる、そういったことなのでしょう」
「まあ、ヒューゴ殿……」
ああ、心に染み入りますわ。フォローしてくださったのですね。
「――ところでオスカー。私の存在、本当に忘れないでくださいね。こちらの身にもなっていただきたい」
ヒューゴ殿は辟易としたご様子でした。
「いや、本当に忘れてないって。ほら、これ食べなー? スコーン、手つけてないじゃん。ほら、ジャムとか公爵クオリティだよ? ぜってぇうまいでしょ?」
オスカー殿はしきりに勧めています。忘れてないよ? とアピールしているかのようですわ。
「……」
ヒューゴ殿はスコーン、そしてジャムを順にみています。ためらわれているようですが、彼はスコーンを手にとりました。手で割り、つけたのはジャムではなくバターでした。
「……その、ジャムの食感が苦手でして。お招き預かった身、隠すべきなのでしょうが」
私とオスカー殿の視線に気づくと、ヒューゴ殿は気まずそうに目を伏せました。本当に気まずそうですわね。
「ああー……ごめん。別にジャム縛りでもないしさ、好きなのつければいいって、なっ?」
オスカー殿も勧めた立場ではありましたが、彼はカラッと笑っていました。見事な気持ちの切り替えです。
「ええ、そうですわ。かしこまった場でもありませんもの。お好きなように召し上がってくださいな」
こじんまりとした身内によるものですもの。何より寛いでいただきたいですし。それにしても……ふふ。私は一人、楽しくなっておりました。ヒューゴ殿の好き嫌いもそうですが、『ジャム嫌い』、ここにもいらしたのねって。
「それなら生クリームは平気でして?」
「はい、生クリームはその……好きです」
「そう、良かったですわ。当家の料理人が大得意でして、ボヌール家名物ですの」
目をそらし続けているヒューゴ殿、どこか照れているのが微笑ましく思えますこと。
「あ、俺も俺も。生クリームつけよっと」
オスカー殿も加わってきました。ヒューゴ殿がつけているのを、まだかなと待っています。犬が待てをしているようで可愛らしく思えるものでした。
美味しい料理に舌鼓を打ち、談笑をして。和やかな時間は過ぎていくものです。




