表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

140/438

裏で手を引いていたのは。

「ずっと……このままじゃいられないの?」

「あなた……?」


 イヴは膝に手を置いて、俯いたままでした。私は菓子を棚に戻し、席に座り直しました。彼は続けます。


「だって、オスカー様とは御友人止まりだし……! あの王太子との婚姻も破談になった! お嬢様の名誉を傷つけられることもなくて!」

「それは……」


 イヴは激しい感情をぶつけてきました。彼が睨みつけているのは書でした。


「だったらこのまま続いたって……!」

「このまま……」


 このまま続いたのなら。そうだったらって、私だって本当は願っていて。でも、こればかりは叶わないこと。そういうわけにはいかないから。


「イヴ。この日々が続くとしたら――アリアンヌ・ボヌールと殿方が結ばれた時ではありませんの? 友愛という形になりましたから、繰り返しはほぼ確定でしてよ」


 しっかりしなさい、私。私は小さく首を振ったあと、イヴに返答しました。


「あ……」


 イヴの瞳が揺れています。あなたがこんなにも落ち込んでいるのは、このことですの? 


「だよね……そうだよね。アリアンヌ様は残り二名に」


 あなたは本当に辛そう。言い淀んでいるイヴでしたが。


「あの二人なら……なおさらだ」

「……!」 


 あの二人。シルヴァン殿……それにエミリアン殿下? イヴ、あなたは何を言おうと……。


「まずはここからですね。お嬢様、父の件は誠に申し訳ございませんでした」

「いえ、よいのです。たくさん聞きましたから。あなたに落ち度などありませんわ」

「はい……」


 私は断言しました。本当のことですもの。


「……それで、父のことです。あのろくでなしの犯行だと思って、僕は一人で問い詰めたんだ」

「ヒューゴ殿とご一緒ではなかったの?」

「はい。ヒューゴ殿と別行動だった時に。だから……僕しか知らない」

「!」


 私の喉が鳴った。イヴが何か、とんでもないことを言おうとしていると。


「なんとか黒幕を吐かせました。あとは金をもたせて、国外に逃亡してもらってます。あんな奴だけど父親……ううん、まずいことを知ってしまっているから」


 黒幕。ライバル商会の少女だったと。そこまでは私も存じてます。


「僕はブリジット様への謝罪もあったけど、他にも目的があった。――首謀者と思わしき人物に極秘裏に確認をとる為」

「思わしき……?」


 私の心臓が早鐘を打つ。おさまってなどくれない。はい、と頷くイヴによって、もっと激しくなっていく。


「その少女もまた、利用されていた。駒に過ぎなかった――裏で手を引いていたのは、エミリアン殿下だ」

「……」


 ああ、そうなのですね。私の中にストンと落ちてきた。


「シルヴァン様も動いていたといっていい。あの人たちがここまでしたのも」

「……」

「ここまで手の込んだことをしたのも……」


 ああ、イヴ。それ以上は言わせませんわ。あなたはもう、辛い思いをし過ぎてますもの。


「――婚約破棄をしたかったから。そうですわね?」

「アリアンヌ様……」

「殿下はどうしても破棄がしたかった。でも、普通にはできなかった。納得のいく理由が今回はなかったから」


 私からすらすらと言葉がついて出てきます。私自身は……茫然としておりますのに。


「殿下はおそらく御存知なくて……コロシアムという場を選んだ。それでも私は危ない時もあった。実際に私が死んでも構わないと……それほどまでに疎ましかったと」


 そう、あなたはそうでしたの、殿下……? 私は未だに信じたくない気持ちの方が強いのです。


「……そんな二人があなたの相手なんだよ」


 イヴは私以上に泣きそうな顔をしています。彼がここまで言いたくなかったのも、納得がいきました。


「ええ……ですが、私は背けませんわ。お考えがわからないお二人ではありますが――立ち向かうまでですわ」


 私は自身を奮い立たせていた。ヒューゴ殿やオスカー殿とは違う。私に明確な悪意があると思わしき方々。それでも、私はどこかで彼らのことを信じていたのです。

 それは、彼らが見せたもの。ふとした時の表情。事実が一つだけではないと、そう思えるようなものでした。



 イヴが退室した後、私は椅子に座りながら窓を眺めていました。思い返す言葉は、大樹の新門番さんの言葉。


『そうだ。それが――あなたが次に輪廻に向かう為の術だ』

『さよう。世界を――物語を、正しいものへと戻す。それが、あなたに与えられた役目でもあるようだ』


 そう。私は彼らとエンディングを迎えたら―私は新たな転生をすることになる。この世界とはもう。


「……アリアンヌ様」


 私の中で眠り続けたままの彼女。彼女に返す時はいつか来るから。


「限られた日々ですから、せめて……」


 よりよいものでありますように。私は祈るような思いで曇天の空を見上げていた―。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ