空に浮かぶダンジョン。
週末までの授業を終えれば、いよいよ殿下との逢瀬です。進展を願って、準備に準備を重ねることにしましょうか。
翌日の放課後、私は下準備に取り掛かることにしました。エスコートは殿下がしてくださるでしょうから、私は贈り物を選ぶことにしました。その為にこうして、街中へと繰り出しているのです。
華やかなる首都。整然と区切られた建物群は、いつみても美しいですわね。王国の御威光もあって、治安も良いものですわ。といっても、私の背後には護衛がついておりますが。
「……贈り物、ですかぁ」
隣についているのは、イヴ。彼もついてきましたわね。でもって、明らかにぶうたれておりますわね。
「――というか、婦人から贈り物ですか?」
イヴが尋ねてきました。婦人から贈り物という慣習は、あまりないようでしたか。私が逆質問したいくらいでした。
だって、ゲームではプレゼント攻撃は当たり前でしたから。それで好感度をあげてましたもの、私。
「ええ、こちらからも贈りたいものですのよ。相手が喜んでくださるのなら、尚更」
好感度が上がってくれるのなら、言う事なし。最高。
「……お気持ちはわかりますけれど」
イヴは複雑そうにしていた。僕だって、と呟いていました。どうしたものかと思いましたが、彼もそうした相手がいるのかしら。まさか……出来たのかしら。質問した当時とは、状況も変わっていることでしょうし。
「……まさかのまさかですわ」
私の脳裏に浮かんだのは、おぼろげな姿の少女。今でも思い出せない少女のこと。
姿は不鮮明でも、恋愛に立ちはだかる存在。ライバルであったこと自体は覚えております。強力で、いつだって数多の殿方の恋心をかっさらっていった彼女のこと。
まだ期間はあります。ですが、やがて彼女は登場しますから――避けられないことでしょう。
「急がなくては……いえ」
私の焦る声は、喧噪がかき消してくれた。そう、それで良いのです。今はともかく――。
殿下のことです。殿下との関係に進展があれば、好転してくれると信じるのです。
「……」
晴れやかだった空に、雲間がかかった。私は目を細目ながら上空を見上げた。
ええ、そうです。存在しているのです。――私が愛してやまないものが。
雲の隙間から姿を覗かせ、霧散していくと同時に現れたのは――空飛ぶ島! 遠目でもわかるのは洞窟群ですわね!
「……通常形態、ですわね」
私は目を光らせた。
「……アリアンヌ様?」
「!」
おっと。隣のイヴが警戒していますわ。私は素知らぬ顔をすることにしました。
ああ……乗り物に乗って空を滑空しているのは、冒険者たちでしょうね。必要な移動手段ですから。ええい、憎き年齢制限よ! もうじきの誕生日まで、私はお預けなのです……!
「……アリアンヌ様?」
何度も呼んできますわね。イヴの疑いは根深いですわね。まあ、ソワソワを隠しきれてない私もですが。
仕方ありませんわ。実際に乗るのも、ダンジョンに訪れるのも。リアルで味わえるなんて思いませんでしたもの。
ええ、待ってなさいなダンジョン! 今回も力になっていただきますわ!
ダンジョンで浮かれておりましたが、本題は忘れてはおりません。今の私は、ダンジョンを利用できませんので、限られてきます。色々考えてはみました。
手作りも候補にいれましたが、食品も王族の方が口に入れるとなると、ですし。料理の腕も磨いて参りましたが、今はその時ではないのでしょう。いずれ、と申しましょうか。普段使いの物も、準備期間が足りませんわね。
となると、市販に頼ることになります。こうしていくつもの店を巡っているのですが。街の外れまでやってきた私達は、怪しげな露店に辿り着きましたの。
「お嬢様、こちらでしょうか……?」
イヴは辺りを見回している。まあ、うす暗い路地までやってきましたものね。取り扱っているのは、怪しげな代物。好きな人は好きでしょうけど、といったもの。そう、それなのです。
「ええ、素晴らしい選択ですこと! こちらを包んでくださるかしら」
正解なのです。私も他の人攻略中に、試しにと殿下に渡してみたらなんと。大層喜んでくださいました。よって、今回も間違いないでしょう。私は店主にお金を渡して、包装をお願いした。
本音を申しますと……ダンジョン製アイテムの方が、段違いではありますわね。ですが、こちらでも充分殿下も喜んでいただけるかと!
さあ、出来ることはやりました。明後日がついに、デートの日となります。スタートダッシュをかけておきましょうか。
時間は有限ですから。強力なライバルの登場までの間、稼げるだけ稼ぎませんと。
元々私に好意を向けてくださっている相手。無事、デートの日を迎えることが出来ると。
この時の私は信じきっておりました――。




