孤立した王太子の傍には。
じめじめとした日々が続き。日常も取り戻していきました。実に平和です。
「あ……」
教室の前の廊下、そちらでお見かけしたのは――殿下でした。なんと意気消沈したお姿なのでしょうか。すっかり精彩も欠いておられていて……。
殿下はあれ以来、定期的に私の教室に訪れては虚ろな瞳をしています。いえ、ブリジット嬢がいた教室でしょうか。休学した彼女は来なくなりましたから。
彼女の面影を求めているのでしょうか。あなたはそれほどまでに、彼女のことを……。
「……」
私はお声がけをしてよいのでしょうか。どうも避けられてもいるようですし。
殿下。あなたはすっかり変わられてしまいました。あれだけ人に囲まれ、人望もあったあなた。今となっては、どなたがあなたのお傍にいるというのですか。それは従者殿にもいえたこと。
「シルヴァン殿……」
会議室の尋問の場以降、彼の姿は見かけませんでした。消息不明といったものです。それを不自然なほど、誰も噂をしないのですから。攻略情報には残っています。安否を確認できるのはそれくらいになります。
「――殿下」
颯爽と向こうからやってきたのは――シルヴァン殿でした。制服姿の彼です。
「……シルヴァン?」
やつれた殿下は、信じられないといった目をしていました。縋るような顔をしつつも。
「……何をしにきた。俺は首にしたはずだ」
その顔を引き締め、冷徹に言い放つ。
私の預かり知らないところで、そのようなやりとりをしたようです。詳細はわかりかねますが、コロシアムの時にいなかったのは、そうした理由があってですの?
「ええ、殿下からは。ですが、現王からの命を受けて私は戻って参りました」
「父上から……」
一度解雇させた側近は、陛下の命によって戻ってきた。陛下は複雑そうにしておいでです。
「殿下。私がお傍におりますから。お忘れではないでしょう――『約束』を」
「約束……!」
約束。殿下はその言葉を受け、目を見開いていました。
「……シルヴァン、お前はそれでいいのか?」
「いいもなにも、陛下からのご命令ですから」
「だ、だよなぁ。父上の命だよなぁ……」
「それとは別に、殿下に仕えたい気持ちも――本物です」
子供っぽくむくれる殿下に対し、シルヴァン殿は跪きました。
「ただいま戻りました――エミリアン様。仕えることをお許しください」
「……」
「お傍におりますから」
「シルヴァン……シルヴァーーン!」
殿下は決壊しました。彼もまた膝をついて、シルヴァン殿に抱きつきました。側近殿の胸元に顔を寄せる殿下。ああ、その胸元が涙と鼻水まみれになっていますわね。
「……!」
私が不躾に見続けてしまったからでしょうか。シルヴァン殿はこちらに気づいていたようです。私が会釈をすると、彼も笑顔で返してくださいました。
本当に綺麗な笑顔。洗練された優美なものですわね。あまりにも綺麗過ぎて……怖くなってしまうくらいですわ。
私は教室に戻ることにしました。出かける予定でしたが、次の休憩時間にしましょう。
「そうですわね、彼がいるのなら……」
誰もが去っていった中、シルヴァン殿は残ってくれた。殿下はそれはもう大喜びでしたでしょう。
シルヴァン殿でしたら、殿下を支えてくださることでしょう――。




