人は言う、逆婚約破棄と。
私が学園に登校すると、予想通りといえましょうか、噂は広まっておりました。
「……」
ええ、私は殿下から婚約破棄された身。覚悟は決まっていますわ。汚名が晴れただけ有難いではありませんの。
「皆様、ごきげんよう!」
さあ冷笑だろうと嘲笑だろうと! どんと来いでしてよ! 笑うならば笑いなさい! 私は力任せにドアを開きました。
「あ! アリアンヌ様だ!」
「おお、アリアンヌ様!」
……? ……?? 思っていたのと反応が違いますわね。こんなにも目を輝かせながらも、私の周りに集まってきますの?
「ごきげんよう。あれ、新聞見てなかった?」
オスカー殿が普段通りに来られました。ともかく私は頷きました。
「ほら、コロシアムのこと。俺がバリアーってしたでしょ?」
バリアーって。オスカー殿は両手を突き出して、バリア―と。軽々しくも仰ってますわね。
「いえ、バリアーって……バリアーですけれども。こう、神々しいものでありませんでしたこと? 栄光なるフェル家によるものであると」
「そう、それ! それがさ、妙にハマっちゃったっていうか。――無実の令嬢を守ったのは、王家の盾だって。正しき者を守った守護神だってさぁ……」
オスカー殿は照れています。ええと、大体把握しましたわ。
私は密かに安堵しておりました。私の大暴れのことよりも、オスカー殿の加護の方が広まっているようです。ですが、それも時間の問題でしょう。私の大立ち回りの目撃者もいるのですから。ああ、どう説明しましょう……いずれバレる前に、言い訳を考えておきませんと。
「オスカー殿の守護によって守られたと。そう大々的に取り上げられていますのね」
世間の認識はそうですわね。ああ、このまま通ってくださらないかしら。オスカー殿が前面でよろしいではありませんか!
「そういうこと! 新聞見てみて、まじでアリアンヌ様かっこいいからさ!」
「そんな。格好良いのはあなたでしょうに。私を守ってくださったのですから」
「そういうこと言うんだから……」
どこかむくれながら、それでいて顔が赤くなっているオスカー殿。私の発言によるものですが、こう、気まずいですわね……。
「っと、なにしてんだよ。オスカー! お前の手柄なんだからさ、もっとドヤれってー」
「そうだぞ、そうだぞ。ほら、あれやって、あれ!」
あっという間にオスカー殿はたかられてしまっています。親しい男子生徒たちによって。そして、オスカー殿。急かされてバリア―してますわね、バリア―って。
「アリアンヌ様、大変だったね。あの婚約者、あ、元婚約者か。ひどいことされて」
「ご心配ありがとうございます。殿下もお考えがあってのことなのでしょう」
慰めてくださるのは、嬉しいこと。私もこうして級友に囲まれるのは新鮮ですし、くすぐったくもありますわね。
「っていってもね、守護神つきのアリアンヌ様でしょ? 神がかっていたし、冤罪でもあったわけで。こうも言われているんだって――逆婚約破棄!」
「逆婚約破棄……ですの?」
逆婚約破棄……逆? 私は頭を巡らせました。頭から離れてくれませんわ。そんな私はさておいて、皆様盛り上がったままです。オスカー殿、まだネタにしていますわ。そのへんにしては?
「でもさー、首謀者と実行犯たち。捕まってないんだよなー」
「!」
私の胸はざわつきました。思えばヒューゴ殿たちは捕まえたとは言ってませんでしたわ。あとは軍に任せたのでしょうけれども。
なんでしょう。まだ事件が解決してないと、そう思えてならないのは。
「……あの、ブリジット嬢はまだ容態が優れませんの?」
そう、彼女の姿が見えません。まだ回復しきれてないのでしょうか……。
「ブリジット? 普通に来ていたけど、職員室に行ってくるって」
と、教えてくださいました。
「ありがとうございます。そう、ご無事でしたのね……」
私は胸を撫で下ろしました。
「――みんな、おはよう?」
ちょうどのタイミングでした。静かにドアを開けたのはブリジット嬢。彼らも迎え入れます。楽しそうに笑うのはブリジット嬢。ああ、本当にお元気になられたのですね。
予鈴が鳴りました。私も席に着席しましょう――その前に。
「ヒューゴ殿。お礼が遅くなってしまいましたわね。あなたのご尽力、深く感謝致しますわ」
予鈴もあってか読書を中断されたヒューゴ殿に話しかけました。あなたにもお礼を言えましたわ。皆様あってのことでしたもの。
「いえ、お気になさらず。個人的にイラってきたので。本当にそれなので」
おざなりに言いますのね。ですが、ヒューゴ殿。
「そちらもですが……あなたが信じてくださったこと、心強く思いましたの」
殿下一派の中、あなたが味方でいてくださったから。感謝してもしきれませんわね。
「……」
「ヒューゴ殿?」
「……そちらも気にしないでください。席に戻られては?」
「ええ、かしこまりました」
ヒューゴの殿は顔を背け、再び本を開いていました。ええ、そうですわね。戻りましょう。
席に戻り際、目があったのはオスカー殿でした。彼はなんでしょう、肩を竦めておりましたわね。それから拗ねているご様子。その……いえ、これ以上はやめておきましょう。
「あら?」
着席した私は、机の中にある何かに気がつきます。取り出してみると、それは手紙でした。宛先は私の名、間違いないようですわね。
「家に帰ってからにしましょうか」
落ち着いて読むことにしましょう。送り主は――ブリジット嬢!
「……」
こっそりブリジット嬢を見ると、私は彼女と目が合いました。口パクで『開けて?』と。ええと、今すぐにでしょうか。私は教科書を盾にして拝見することにしました。
「なっ……!」
愛らしい文字でこう書かれていました――果たし状と。




