大樹の下で――禁断の地。
ああ。こちらは夢の中なのでしょう。私の今の姿は結衣の姿なのですから。場所はあの、モニターがたくさんある暗室。時折砂嵐が起きる、不安定な画面ですこと。
「そっか、ここって……セレステ!」
前にも似たような夢を見たことがありましたわ。どの画面にも映されたのは――。
「セレステ……!」
画面一斉に映し出されたのは、私の大親友の一人、セレステ。大樹のもとで長い日々を過ごしていました。
変わらず笑顔のセレステ。私からの声は聞こえても、向こうからのは聞こえません。それが残念ではありますが、お元気そうならば――。
「あれ?」
セレステだけではありません。周りに飛んでいるのは――一匹の黒い蝶?
「どういうこと……?」
紫や緑。エンディングの道しるべとして現れる蝶。そちらとあまりにも似ていました。いえ、よくある蝶と言われればでもありますわね。
「ねえ、セレステ。その蝶、どうしたの――」
私の質問とほぼ同時に、映像は遮断されました。ええと……元々電波状況はよくありませんでしたから。故意に切断することなど、ないでしょう。
画像は途切れ途切れなながらも、再び映し出されました。今度は大樹の映像です。
結衣がセレステたちに一声かけ、どこかへ出かけるようです。いつも散歩していましたものね。確か、この日はかなり遠出していましたわね。考え事をしながらでしたので、気づかぬ内にとも。
「ああ、そうでしたわね……」
豊かな地だった場所から、異質な場所へ。あの清浄な空気に包まれた場所からはほど遠いところ。空間に赤い裂け目があって、どこかへと繋がっているようでした。
「そう、そうだった……」
誰かが。誰かが私を呼んでいる気がした。私が手を伸ばそうとした時。
『小川結衣!』
止めたのは大樹の番人さんだった。私はまさに裂け目に引きずり込まれるところで、彼に抱き寄せられることになった。私は彼に助けられたんだ。
覆面で姿も顔も隠す門番さん、表情は伺えません。それでも焦っていたのは確かでした。私がお礼とお詫びをすると。
『無事なら良い』
そう答えてくれました。帰り道、彼はあの避け目について教えてくれました。
あの裂け目は――生前、多大なる過ちを犯した者が辿り着く場所だと。長い時を経て、ようやく転生がなされるのだと。
その話を聞いて、私は身の毛がよだつのでした。その時になってでした。
門番さんに念押しもされましたわ。二度と近づかないようにと。まさにその通りですわ。私は深く反省し、彼にも誓っていました。
『もう、ユイはさ、本当にさぁ! どんだけ遅いっての! 心配したでしょうが!』
途中まで迎えに来てくれたのはセレステたちでした。会って即、セレステに叱られました。
『ユイちゃん……あなたに何かあったかと思って……』
目に涙を浮かべながら、駆け寄ってきた少女。彼女は――。
『無事で、無事で良かった……!』
私の腕の中で泣きじゃくる彼女は――ブリジット。とても私のことを心配してくれていました。
私達はいつもの場所に帰っていった。大樹はいつでも迎えてくれていたのです――。
雨が降る音。辺りは暗いですが、どうやら朝を迎えたようです。
「ブリジット……」
私はベッドの中、仰向けになりました。ブリジットとブリジット嬢。あれだけ姿形も似ているというのに……別人なのでしょうか。
私はベッドから起きて、机の引き出しを開けました。中には私が作った木の葉のバレッタ。おそろいで作ったアクセサリー。
「……」
私はそっと撫でました――彼女のことを思いながら。




