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愛に育つまで。

「……」


 私は何を言おうとしているの。こんなにも彼を、愛しそうに見つめて――。


「アリアンヌ様。俺、待つから。あなたから聞きたい」

「オスカー殿……」


 静寂なる雨の中、彼はこうして私を見つめたまま。手は重なったまま。私の答えを待つと。


「……私の答え」


 彼と過ごした日々。いつ恋になってもおかしくはなかった。私は……私の気持ちは。


「……ごめんなさい。私の心はそこまで育っていませんでした。私が出せる答えは、友人のままでいることです」


 私は彼から手を離しました。それが私の答えでした。

 変わらない私の答え。何もかも捨ててでも彼と。そう思っていたのなら、私は『あの時』にその答えを選んでいたはずだった。でもそうではなかった。


「……わかった」


 力なく言うのはオスカー殿。彼にそのような顔をさせてしまったのは、この私です……。


「あー……全然まだだった。俺、早まり過ぎじゃん」


 オスカー殿は落胆しながら空を仰いでいます。


「申し訳ありません……」

「……いいよ。これ以上はやめて。俺が勝手に好きになっただけだし」

「申し訳……失礼しました」


 謝ることすらも嫌な気分にさせることでしょう。私がしたことは思わせぶりなことだったと。


「ほんの少しでも可能性があるなら、諦めないし」


 オスカー殿の目線は空から私へ。


「愛情に育つまで、伝え続けるから」


 とても穏やかな顔で。それでいて強い眼差し。私もまた、その眼からそらせずにいました。


 東屋の中で連なっていた二匹の蝶。彼らはつかず離れずの距離となりました。ええ、そうなのですね。

 私は――友愛エンディングを迎えたのでしょう。


「あ、そうだ。ご両親から観劇の招待があってさ。今週末、一緒に行こうって。あと夜会も近々あるから、エスコート役仰せつかりました!」

「そちらは構いませんわ……オスカー殿?」


 この、なんというべきでしょうか。こちらはいわゆる――。


「外堀埋めてるってやつかな、あはは」

「まあ、おほほほ……」


 オスカー殿は照れながら笑っています。私もつられて笑ってしまいましたわ……いいえ。


「はっきりと仰るのですね……せめてもっとぼかすとか」

「あはは」


 笑って誤魔化す気なのでしょうか……オスカー殿? 


「俺さ、ご両親との交流が嬉しいのもそうなんだ。敬愛もしているし。うち、母親は小さい頃に離縁して出ていったきりだし、父とか継母たちはああだし。畏れ多いけど本当の両親になってくれたらって……」

「まあ、オスカー殿……」


 オスカー殿は切なそうにしていました。そうでしたわね、あなたはご家族のことでも苦労されましたから。私の両親ならば温かく――。


「ああ!」

「きゅ、急になに?」


 なんということ、絆されてしまいそうですわ! あ、ごめんなさいませ、オスカー殿。驚かせてしまいましたわね。

 ええ、そうです。友愛という関係に至ったはずなのです、ええ! 


「……」


 オスカー殿との語らいが続く中、私は考えてしまいます。

 なんて楽しい一時。けれども――それには限りがあるのだと。


 あなたは好きになってくださった。それもまた、限りがあるのです。楽しい日々も突然終わりを告げ――巻き戻ることになります。あなたの思いもまた、無くなってしまうことでしょう。


 今はただ、この時間を楽しみましょう。



 六月の夜。雨は降り続いたままです。私は窓の外を眺めたあと、消灯しました。もう眠りましょう。色々とありましたもの、体を休めましょう――。




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