大衆の目の前で露見したこと。
私達を奮い立たせる歓声。何より共にオスカー殿もいるのですから。
私達は戦い、戦い続けて――鐘が鳴った。
「ああ……」
一日の終わりを告げる鐘の音。
「……えっと? よくわかんないけど、これでいいの? そういうこと?」
オスカー殿は事情を把握されないまま、こちらに来たのでしょう。
「ええ、そうですわ……生き延びたのです」
いまだに実感はわきませんが、私たちは乗り切った――解放されるのですね。
「そっかぁ、やった!」
「ええ、本当に……ですが」
まだ喜ぶには早いようです。私達の目線の先には、そう殿下です。
「……約束はしたけどなぁ。うーん、罪人を野放しにってのはな」
殿下はこの期に及んででした。まだ何かを企んでいようというのです。
「うーん、そうだなぁ……そうだ!」
殿下は腕を組んで思案していましたが、何かを思いついたようです。
「逃がさなければいいんだ! 『あの塔』での暮らしは気に入ったかぁ? ――ずっとあそこにいていいんだぞ?」
「なっ、話が違うではありませんか! あなたは解放すると」
「言ったかな? 言ったかもな? ……でもな、わかってくれないか。大罪人相手にあまりある恩情だと。なあ――すぐに処刑してもよかったのだぞ?」
「それはあまりにも……」
民の前で誓ったことを、覆そうというのですの。それはあんまりではなくて。
「――そのへんにしていただけませんか。潔くありませんよ」
ガガッと音が鳴った。それから聞こえる声は、ヒューゴ殿によるものでした。迎賓席の真向いの客席の方から、彼は拡声器を使って語りかけていました。
後ろにいるのはイヴ。彼もどうにかして脱出してくれたのでしょうか。
「発言をお許しください。アリアンヌ様による犯行と思われていますが、彼女は本当に無実でした。あらゆる証言と証拠も揃えています。加えて――指示した者、黒幕の名についても」
ヒューゴ殿、イヴも……私の潔白を信じて調べてくれていたのでしょうか。あなた方もまた、戦ってくださったのですね。私はどれほど感謝したらいいのか。
「……黒幕?」
殿下の射抜くのような瞳。
「はい、黒幕です」
ヒューゴ殿は慄くことはなかったようで、続けています。
「黒幕は――バリエ商会の競合店によるものでした。そちらの……ご息女によるもの。ブリジット嬢のことが気に入らなかったからだそうです。実行犯、及び手口につきましても、然るべき機関に提出済みです」
ヒューゴ殿は言い切った。ここまでされて、殿下はどう動くのか。
「……おいおい、ヒューゴ殿? 俺が言ったこと忘れたのかぁ? いいのか――伯爵家のことは」
殿下は家のことを盾に、ヒューゴ殿を屈服させようとしていますわ。なんてことを……。
「……はあ」
ヒューゴ殿……溜息つかれました? 拡声器に入ってましてよ?
「私がここまでやったのも、あなたの発言も原因ですが? 家のことなど、どうでもよくなる程に」
「は、俺の……?」
「殿下が信じるくらいなら口だけでも、と。元々彼女を助けるつもりではありましたが、私を相当苛立たせましたからね。もう徹底的に洗ってやろうと」
後方のイヴも頷いていますわ。彼らに渦巻くのは怒りでした。相当苛立つ発言だったのでしょう。
「よって殿下。今回はこのくらいにしますが、もっと調べてやろうかと。たとえば、被害者であるブリジット嬢に関することでしょうか。多くの貢ぎ物をされていると――」
「わわっ、ヒューゴ殿!? 待て、待つんだ!」
これは時間の問題ですわね。彼らの手によって、殿下のことは暴かれていくことでしょう。
今気づいたのですが、記者の方も数名いらっしゃいます。王族のスキャンダルを押さえる気のようです。今回のことは格好のネタでありますでしょう。
「ふざけんじゃねえぞ、アホ王子ー! 約束は守れや―!」
「俺らの血税使ってねえだろうな!?」
記者だけではありません。一番の目撃者はこちらの多くの民。これだけの声、あなたは無視出来ますの?
「――殿下。民の声は届きまして?私はもうあなたのお傍にいることは叶いませんから。最後に鬼からのお小言でも――どうか、民の声に寄り添われますことを」
私は深々と頭を下げました。この罵声の中、私の声は届いたのかしら。
「……かっこいいわ、アリアンヌ様は」
そう呟くオスカー殿と、そして。
「……はは、ははははは!」
笑い声を上げていた殿下。彼は笑いながらも軍人たちに連れていかれる。彼らの判断なのでしょう、今、殿下がこの場に留まる理由も利もないのだと。
「――これで良かったんだ」
「……殿下?」
どうしてなのでしょう。これだけ声が飛び交う中、私にはその声が届いていました。何が良かったのか――私はもう知ることは出来ないのでしょうか。




