盾。
あれからどれほど経ったのでしょうか。戦い続けていると時間の感覚も麻痺してきそうです。
「くっ……」
ちらりと見た殿下の様子で判断しています。殿下は指でひじ掛けを叩いています。面白くもなく焦っている様子ですわ。想定外のことだったのでしょうか。
「はっ!」
と、考えている内にも魔物は襲ってきます。ちょうど槍を携えた魔物ですわ。こちらの武器も摩耗していましたからね、頂戴しましょう。
「せいっ!」
私は槍で高速突きを繰り出した。それから払って魔物達を切り裂く。
「……」
私にやられて消滅する魔物たち。心を痛めている場合じゃない、私は生き延びなければならないのです。
観客達も今では、私を応援しているようです。彼らに呼応するかのように、私の感情も昂って参りました。
「はあはあ……」
さすがに体力的にも辛い、きつい。息切れも起こしている。それでも、私はやれる。このまま生き残れるのだと。私に笑顔が戻った。
「……よく笑っていられるものだな」
この歓声の中、冷淡なる声が聞こえてきました。私にははっきりと殿下の声が聞こえたのです。
「――やれ」
殿下は指を鳴らしました。一瞬、何も起こらないと思われましたが。
「!?」
煙幕が沸き立ってきました!ここで目くらましですの!? ですが、私には心眼が――。
「……うっ」
煙が晴れていくと、私の体に異変が起こりました。眩暈のみならず、力も入りづらくなっています。体力も過剰に消耗していったり――私はあらゆる状態異常にかかってしまっていたのです。
「なんの……」
この程度、なんともありませんわ……! 私は槍で体を支えながら立ち上がります。
「……この程度では効かないと。ではさらにだ」
「……殿下」
どこまで冷酷なのでしょう。殿下はさらに、またさらに仕掛けようというのですか。最終的には私が――立っていられなくなるくらいに。
「やはり――一息に楽にした方がいいのか」
「……」
そうですわね。私に与えられたチャンスは――よく知りもしなかった殿下によるもの。私にここまで出来るとは思ってもいなかったらでしょうか。
このままでは私が生存することになるから。彼も面白がっていられる状況ではなくなったと。
私の息の音を止めるガスか。それか、今命じている軍人たちにも何かをさせるか。
「……私も、だったのでしょうか」
私も殿下を侮っていたでしょうか。愛する少女を危険な目に晒したと思って、私にここまでの憎悪をぶつけてくるのか。――死んでもかまわないと、むしろ望むかのような。
「……私は足掻きますわよ」
大盾を所為した大型モンスターもいますわ。どこまで凌げるかはわからない、それでもないよりは――。
私はその魔物に近づこうとした。それでも、意図しなかったのは突風だった。追い風が、死の煙を早く到達させようとしていた。
このままでは間に合うかどうか――。
「――勇士フェルの名の元に。加護の盾よ、発動せよ」
静かなる声。けれども私に響く声。
「あ……」
温かな白い光に私は包まれていた。私は彼の――オスカー殿の力によって守られているのだと。
「アリアンヌ様!」
「え……」
不思議な力を目の当たりにしたよりも、もっと驚いたこと。
「遅くなってごめん! 捜しまわったり乱入したりとかで……とにかくごめん!」
私に手を差し伸べてきたオスカー殿。そうです。彼の一番のトラウマは、コロシアムに落とされたこと。一番慄いていたことでしょうに、彼は。
こうして降り立って――私のところまでやってきたのですから。
「……あなたは」
私の思いは溢れかえりそうだった。色々と伝えたいこと、話したいことがあり過ぎて。でも今は――。
「オスカー殿、あとでたくさん謝らせてください。今は」
「うん、わかってる」
相手方はさらなるガスを撒こうとしているけれど、それはもう効かない。彼の『盾』によって守られているから。
「っと、卑怯だってまじで!」
オスカー殿もまた強奪した剣で矢を弾いてました。殿下は軍人たちに次々と命じています。そうですの、そちらからも攻撃してきますの。そう……。
「では、殿下! 私一人ではありませんが、構いませんわよね! 約束もしてませんでしたわ!」
私一人で、というね! 鼻を鳴らしてやりました。
「アリアンヌ様、挑発もほどほどにねぇ……嫌いじゃないけど!」
オスカー殿は華麗に剣をふるっていきます。ええ、私も!




