嫌がらせの首謀者を断罪せよ②
「それとな、オスカー殿にも期待しないようにな?」
殿下は続けられます。私が意気消沈したのを確認した上で、追い打ちをかけるかのように。
「あわよくばって思っているかもだけどな? あっちは伯爵家の令嬢だからってのがあっただろうし。君にも取り入りたいだろうから、もしかしたらってな」
それはすぐには否定できなかった。伯爵家というカードは強力だから。つながりを持っておきたいと考えるのも至極当然でしょう。
「……いいえ」
オスカー殿と共に過ごしたからわかっています。彼はそのような方ではないと。
殿下はまだ、私の心を折ろうとしているのでしょうか。話を続けています。
「この場には呼ばなかった。彼には然るべき『教育』が必要だと思ってな? ――男爵家の皆さんにみっちりとお願いしたんだ」
「……なんですって」
私は唖然としてしまった。殿下はきっと――男爵家の実情をご存知で。わかった上でオスカー殿を男爵家に閉じ込めたのだと。教育というけれど、彼のトラウマを再発しかねないような状況。殿下がそうさせたのなら。
「あなたという方は……!」
今まで明確にしなかったもの。今はもう、隠しきれなかった。それは、この人に対する――嫌悪だった。
オスカー殿が万が一にでも私の味方をすることがあったのなら。そうはさせまいと、そこまでするというのですか。
「……」
このような人に負けてはいられない。何とでも言えばいい、いくらでも折ろうとすればいい。私は屈しません。その意を込めて、私は姿勢を正しました。
「……はあ、まだわからないのか」
殿下は溜息をつくと、改めてと宣告してきました。
「犯人は――アリアンヌ・ボヌール。それは免れないんだよなー」
ああ、殿下。この国の王太子にして、私の婚約者であられるあなた。あなたのそのお顔、口元は笑んでらしても、目が笑っておりませんわ。余程、私にご立腹なのでしょうね。
断罪しようとしているのは、殿下ですわね。それも。
今、この場にはいない少女。あなたが愛する『彼女』に――危害が及んだから。
私が犯人であると、調査報告も上がっているようです。証拠や証言もあるのだと。
私は潔白ですもの、捏造されたものでしょう。
「君が彼女のこと、よく思ってなかったのはわかってる……わかってはいるがな」
私を理解しているように仰っていますが、疑っているではありませんか。あれだけ聡明であったあなたが、判断を誤るほどに。
「しでかしたことがなぁ……度が過ぎているからな」
底冷えするような笑顔の殿下。それだけあの少女のことを愛していらっしゃるのね。
「――殿下、申し上げます。私は誓って無実でございます」
決して気持ちでは負けないように。殿下はいかようにも追い詰めてきますから。
「失礼ながら、殿下。私も――アリアンヌ様は濡れ衣を着せられていると。そう考えております」
ああ……ありがとう、ヒューゴ殿。立っているのがやっとな私ではありますが、支えてくれるのですね。
「……なるほど、ねぇ」
殿下はヒューゴ殿に目をやって、顎に手当てながら何かを考えておられます。
「でもなぁ? 君が聖女に危害を加えた証拠はあるからなぁ?」
殿下は書類の一枚を手にとり、ひらひらとさせています。あなたがぞんざいに扱うそちらに、私の進退がかかっているとも言えますのに……! 私は唇を噛み締めました。
「それでも……本当に無実だと。誓って言えるのか」
「はい。誓って、私は無実ですわ」
私は譲れません。これから何が待ち受けていようとも、揺るがないのです。
「そうかそうか……何かがあって覆ればいいな? 無理だろうけれどな、誰が君を信じると?」
殿下は笑みを浮かべていました。とても晴れ晴れとした顔で、残酷なことを仰る。
「お言葉ながら、殿下。私はアリアンヌ様を信じています。彼女はそのようなことをする人ではない」
変わらず私を信じ続けてくれるヒューゴ殿。
「……なんだよぉ。ヒューゴ殿ってもっと賢いと思ったんだけどなぁ? 呼ぶんじゃなかったなぁ!」
「それは失礼しました」
殿下から敵意を向けられても、ヒューゴ殿は平然としていました。殿下はそれを面白くなさそうにしつつも。
「信じるくらいなら口だけでも言えるよなぁ」
「……」
「安心しろ、聞かなかったことにしてやるからな。なっ? ――おうちに迷惑かけたくないだろ?」
殿下は寛大な対処をしたと言わんばかりでした。
「……失礼しました」
ヒューゴ殿はこちらを見る事はありませんでした。そうですわね、充分ですもの。彼にも迷惑をかけるわけにはいきませんわ。
「……ということでぇ? ――連れていけ」
「!」
おどけた様子から一変、殿下は冷酷に命じました。軍人たちも構える。私は対処しようと動こうとしたところ。
近くにいたシルヴァン殿に薬をかがされた。意識が――遠のいていく。
「――」
ああ、意識が朦朧とした中――シルヴァン殿は何かを呟かれたよう。
ですが、それを聞き取れることはありませんでした――。




