嫌がらせの首謀者を断罪せよ①
学園に着くと、私は廊下を歩かされています。彼からの拘束は解かれました。ええ、抵抗しないと御承知でしょうから。
通されたのは会議室。覚えがある場所でした。
「――シルヴァンでございます。お待たせ致しました。アリアンヌ・ボヌールを連れて参りました」
従者殿は扉を叩く。私を呼び捨てしています。既にこの扱いですものね、覚悟はしておりましたが。
「よし、入れ」
「失礼致します」
扉は開かれました。長机を囲んで生徒達が座っていました。中央に座するは殿下、同席しているのはどなたも殿下と親しい方々ばかり。一人だけ違う方がいました。
「ヒューゴ殿……」
「……どうも」
ヒューゴ殿が末席に座られていました。彼は軽く頭を下げてきました。
「アリアンヌ、悪いけどなー? このまま話を始めさせてもらうぞ?」
殿下は緩く笑っています。ええ、私と側にいる従者殿を立たせた状態ですわね。
殿下のお話、それはよくないこととは存じてます。良いお話でしたら――このように、軍人たちを待機させないでしょう。
――そう、これから行われるのは『断罪』でしょう。殿下は私に問おうとしているのです。
「……」
やはり避けられませんのね。ですが毎回言えること。私は罪に問われるようなことはしていません。堂々としていましょう――。
「……?」
そう、断罪ですわ。殿下にシルヴァン殿、そしてヒューゴ殿。そこまで揃っているのに――オスカー殿のお姿がありません。殿下の御友人方はいらっしゃいますわね。
「そんなに見回してもなー? ――オスカー・フェルは呼んでないぞ」
私、そんなに彼を捜してしまっていたのでしょうか。殿下ににこやかに指摘されてしまいました。
「……かしこまりました」
「よし、始めるな。君は――ブリジット嬢にあらゆる嫌がらせをしてきた。間違いないな?」
「!」
来ましたわね……いつもの濡れ衣ですわ。
「いいえ、殿下。事実無根でございますわ」
私は嘘偽りなく答えました。そもそも嫌がらせ自体が初耳でした。
「……ほう。君とブリジット嬢、遠巻きながらも二人きりだったのも目撃されてるんだよな」
それは私が彼女から呼び出された日ですわね。その時の彼女、指に怪我を――あ。
「ブリジット嬢はわかりにくい、細やかな嫌がらせをされてきた。例えばだな、教科書などに刃を仕込んで指を切らせたり」
「……」
あの時の傷は料理によるものではありませんでしたの? 私に嘘をついたの確かなこと……信頼を得られなかったのでしょう。
どのみちブリジット嬢は誰かの悪意によって……危ない目に遭っていたのですね。
「証拠だってある。厳密な調査によるものだ……君がやったものだと」
殿下の前に積まれた書類。そちらにブリジット嬢の被害報告が上がっているのでしょう。それは――私によるものだと。
「そうだなー。愛用している私物をボロボロにされたり。本には罵る言葉を書かれていたり。雑巾のしぼり汁を飲み物に入れられていたり――」
私が気づきませんでした。ブリジット嬢は、そのようなことをされていたというの……。
「そう、飲み物だ……」
殿下から笑顔はなくなり、彼は私を睨みつけ――激昂した。
「君という奴は――毒までもるというのか!」
「……え」
何て仰いましたの? 毒……?
「気に入らないからって、毒をもるのかと聞いているのだ! 幸い命に別状はなかった……でもな! そこまでするのか!!」
「……」
ブリジット嬢は無事だった。それでも毒をもられるよな、そんな……。
「その前からも度を越していたよな! 遊びに出かけていたブリジット嬢に刺客を仕向けた! オスカー殿の助けと彼女の機転がなければどうなっていたことか……」
ええ、ブリジット嬢を襲った者達。そちらも私によるものだというの……。
「動揺しているのか、アリアンヌ。事実を指摘されたからか」
「!」
殿下の一言に、周りの生徒達も訝しんでいた。私は確かに動揺していたけれど、それは彼女の被害を聞かされたからで――。
「……。殿下、落ち着いてください。アリアンヌ・ボヌールの話も聞かれては?」
シルヴァン殿? 主相手に彼は諫めています。
「……けどな!」
「殿下」
猛る殿下相手にもシルヴァン殿は動じてはいません。
「……すう、はあ。わかった。――アリアンヌ、君にも申し分があるのなら聞く。彼女への申し訳なさ、罪の自覚があったというなら。温情をくれてやらなくもない」
「殿下……」
殿下は大分冷静にはなられました。それでも……あなたは疑っておいでなのですね。
「殿下、私ではございません。そちらの証拠も捏造されたものでしょう。ブリジット嬢に嫌がらせする謂れもありませんわ」
私は主張するまでです。やってもいないことに頭を下げて許しを乞えと? ――いえ、やって収まるのなら、考慮もしますわ。ですが、違いますでしょう?
あなたは決して私を許しはしないでしょう。
「……謂れ、かぁ」
殿下は笑いました。その表情は相手が相手ながらも、卑しいもので。
「あるんだろぉ? ――あの二人の仲、オスカー殿とブリジット嬢の関係が羨ましく、そして妬ましかったんだろ? だから悋気を起こしたんだろ? ……俺という婚約者がいながらな」
「違います!」
私は苛立ってしまったのか、大きな声を出してしまいました。あなたが、あなたが仰るの……? あれだけ彼女に浮かれて、その婚約者を誤解で裁こうとしているあなたが!
「私は殿下の婚約者です! 他の殿方に現を抜かすなど――」
「アリアンヌ。まだ、婚約関係が成立していると思っているのか?」
「……殿下」
「君は罪人だ。当然とも言えるが――婚約破棄だ」
「……」
殿下にとって都合の良い展開、そんな風に私は思ってしまいました。狙ってではないでしょうが、嬉々としたあなたをみると考えてしまうのです。殿下……私は邪魔だったのでしょうか。




