殿下は相変わらず彼女に夢中。
昨日の騒動のあとではありますが、皆様登校はされてきました。あの刺客たちは捕まったと。
首謀者がいた場合も、その点は安心でございましょう……殿下自ずから尋問してくださるのだとか。ですわね。ブリジット嬢に実害がありましたものね。伝え聞いた話によりますと、とても張り切っていらっしゃるのだとか。
私はいつものように階段でイヴと別れ、自分の教室へとやってきました。
「ごきげんよう!」
ああ、いつもの朝の風景がこんなにも愛しいだなんて。交流もあったからでしょうか、皆様の態度も軟化されているようです。
「あ、アリアンヌ様。ごきげんようー」
オスカー殿も普段通り……ええ、そうですわ。彼が笑いかけてくれたので、私も微笑みました。さらに笑顔全開になるのがオスカー殿。あら、笑顔対決ですの。私も負けませんわよ。
「ぷっ、あははは」
「オスカー殿? 何故笑いますの?」
私とてとびきりの笑顔を見せましたのに、オスカー殿は大笑いしてくるではありませんか。大口を開けている無邪気な笑顔。その、とても可愛らしいとは思いますわ。
「なんかさ、口と鼻がひくひくしてたから」
「なっ、口はともかくとして鼻までっ?」
「あ、鼻はうそ。口はほんと」
「オスカー殿ー?」
なんというおちょくりっぷりですの。ええ、これがあなたの友人扱いなのですね。でしたら、甘んじて受け入れようではありませんか。
「……もう、オスカー様? 話の途中だったんだけど?」
「……そっか、途中だったっけ。そうだっ、アリアンヌ様も一緒に―」
会話に加えてくださるのかしら。オスカー殿が私を手招きしていると―。
「――アリアンヌ、いるかー!?」
この私にも匹敵するほどの大声。このよく通る声は殿下ですわね。お一人のようです。
というか、私ですの? ブリジット嬢ではなくて?
いやいや、婚約者は私でしょう。それでも悲しいことにですわ。自分が優先されない事実に順応してしまってましてよ……。
「はい、おりますわ。殿下、お運びいただきましたのね。こちらから伺いましたのに」
わざわざ殿下からお越しくださるなんて。私は足早に教室の扉までやってきました。
「いや、いいって! こっちにも用があったし」
「用でございますか」
そういうことでしたら、ですわね。ひとまずは私への話からのようです。
「そーそー! でな、話なんだけど。日曜のことで、待ち合わせ時間の変更な。悪い、こっちの都合なんだ。あの時間帯だとそっちを待たせることになるから」
「さようでございましたか。いえ、こちらのことはお気になさらないでくださいませ。お気遣いありがとうございます」
「いんや? いいってことよ!」
殿下はその為だけに、いらしたというのですか。こちらはいくらでも待てますのに。本当に優しい方ですのね。気さくに親指まで立てまして。私に気にしないようにと、伝えてくださってますのね。
「――では、陛下。御用もおありでしょう? こちらは問題ございませんから」
「そっか? ……じゃー、ブリジット―!」
……は? と、口に出すところでしたわ。御用ってそちらですの?
「おお、ブリジット……無事で良かった。本当にあいつら許さん、だからな? 徹底的に締めあげておくからなっ?」
殿下はしゅばっとブリジット嬢の席までやってきて、座る彼女に合わせて屈んでいます。ええ、それは心配もしますわね。こうして訪れるのも道理ともいえましょう。
「……」
あれだけお顔を寄せ合っても、道理……なわけないでしょう。まあ、そろそろ予鈴も鳴りますし殿下もお戻りになるでしょう。
「……え」
私ももう席に着いてしまいましょう。その時でした――オスカー殿からの視線に気がついたのは。ただ私を見ているだけではなく、彼の視線は殿下へも。殿下は彼女に夢中で気づかれてないようですが。
「どうして……」
殿下には険しい目を。私には――焦れたような目を向けるのでしょうか。オスカー殿、どうしてなのです。




