幸先の良いスタート!
「……ああ、ついに。やってまいりましたわね」
春が訪れ、暦は四月となりました。そこはゲームの仕様、日本に合わせての設定とのこと。
私は高等部からの編入となりますが、通うことになりますは――国立の名門、アリエス学園ですわ!
貴族が多くを占めますが、王太子殿下も通われています。平民も優秀なれば、門は開かれているのです。
ボヌール家の馬車が着くと、在校生の皆様が盛大に迎えてくださいました。歴史ある校舎は褪せることなく、素晴らしい景観を保ち続けておりますわ。さぞ、尽力なさっているのでしょうね。
ああ、栄えある名門よ。眩く輝くばかりよ。私もこの学園に相応しい生徒でありましょう。
学園の入学もまた、つつがなく。アリアンヌ・ボヌールとして、新入生代表の大役もこなしましたわ。寝る直前まで暗記した甲斐がありましてよ。
「――ご入学おめでとうございます。アリアンヌ様」
馬車の中でも言いましたけどねと、笑うのはイヴ。講堂から出てきた私に対し、声を掛けてきました。なんでしたら、起床時にも朝食時にも言われましたが、そこは触れないでおきましょう。
イヴったら、私以上に浮かれているのかしら。
「……学年は違いますけれど。ですが、お構いなく! なんなりとお申しつけくださいね? すぐに飛んで参りますから!」
「え、ええ……よろしく頼みますわね」
イヴ、あなたも眩いわ。愛らしさを振りまいていて、花のような笑顔を見せてきますこと。思わず圧されてしまいましてよ。
彼はお辞儀をすると、待たせていた学友の元へと戻っていきました。何やら絡まれているようですが、そこは私が出ることもないでしょう。楽しそうでありますもの。
「……」
ええ、先程の私は有頂天でした。本来ならば浮かれる立場でもあります。そんな私ではありますが……今になって緊張して参りました。
――ここからが、正念場と申しましょうか。
妨害でもされていたかと言わんばかりの、攻略対象とのフラグの立たなさ。
殿下達に会えたのは、私が婚約者であるから。他の二人は誰かは知っていても、お会いできないまま。なんということでしょう!
「ですが!」
奇しくもその二人は私と同級生。同じクラスなのです! 設定に感謝致しますわ!
そう、ここからですわ。ここから距離を詰めていって、『恋愛遊戯』に打ち勝てばよいのです。
恋愛。ええ……恋愛ですわね。その……恋も知らない私でございますが。そこは抜かりありませんわ。そこは前世の知識。対策はありますの。万事、抜かりなくですわ!
ここで回想が入りますわ。私の復習もかねてですのよ。
『……本当はどんなエンディングだったの? 本当にハッピーエンドあるの?』
こちらは、結衣の頃の話ですわね。グロエンディングしか迎えられなかった私。従姉が言うには、そんなつもりではなかったと。
『どんなって。普通のエンディングだよ。ラブラブなのと? あとはね――』
――友愛エンディング。従姉はそう教えてくれました。
愛情を選択していくと、恋愛エンディング。そして。
友情を選択していくと、友愛エンディング。だそうです。
以上、回想でした。
恋愛。そちらは正直ハードルが高いですわ。いえ、ゲームキャラ相手とかではないのです。私はアリアンヌとしてお世話になった身でもありますから。ここで生きてきましたから。生きた人間を相手にしてきたと、私自身は思っております。
ただ単に、私の恋愛経験の無さからです。
だからこそ、友愛エンディングを目指す。確実性を狙ってもあってですわね。
ともあれ、彼らとの交流を重ねて、信頼を得ないことには始まらないのでしょう。私、理解してますのよ。ええ。
「……やり遂げましょう」
忘れもしないのは、彼女達のこと。私の制服の胸ポケットにしまってある、木の葉のバレッタ。彼女達も生まれ変わった先で、きっと幸せに生きているはず。
「ふふふ」
励みでもある存在に触れて、私は力が漲ってきた。
さあ、攻略対象の殿方が待っておりますわ。アリアンヌ・ボヌール、参りますわよ!
「ほほほほ、おーほっほっほっ!」
ああ、私の高らかなる笑い声が響き渡りますこと!
私が教室に着きますと、一気に注目を浴びることになりました。公爵家の、王太子殿下の婚約者の、そう噂されてますわね。騒々しくもありますわね。落ち着かせましょうか。
「……皆様!」
あ、声が大きくなっちゃった。驚かせたといいますか、ビビらせたともいいましょうか。まあ、静まったのでよしということで。
「私、アリアンヌ・ボヌールと申します。以後、お見知りおきを」
微笑みをたずさえながら、私は挨拶を一つ。
「……あら」
中々挨拶が返ってきません。それどころか、距離をとられているようでは? 何かまずったかしら……。私は仕切り直して、挨拶をし直そうとしましたところ。
「――お噂はかねがね。俺はオスカー・フェル。よろしくね、アリアンヌ様」
「!」
向こうからおいでくださるとは。彼もまた――攻略対象の一人ですわ。名門フェル家の御子息であられますの。フェル家は武勲を上げておられましたわね。
従姉の早口説明によると、『爽やか人気者! とっつきやすいよ! 』だとか。ええ、確かに。人当たりの良さそうな殿方だこと……まあ、その、なんですけれど。
「ええ、よろしくお願いしますわね。オスカー殿」
「……へえ」
私が無難な挨拶を返したところ、何やら観察をされているよう。なんだというのでしょう。
「アリアンヌ様はご寛容ですね。馴れ馴れしい口を利かれて、気分を害されたらって思ってたけど」
「……ああ」
何かしら。試されてでもしたのかしら。どうしたものかしら。といっても、答えないわけにはいきませんわね。教室の彼らがハラハラしていますわ。公爵家の人間に対し、どういったつもりなのかと。
「……いえ? ご学友でもあらせられるでしょう? 気になどしませんわ? いかようにもどうぞ」
私は微笑んで返した。何も咎めるまでもないでしょう。同じ学徒でもあるのですから。
「そっか、良かった。っていっても、節度は持つようにはしますね」
「オスカー……ほんとうにお前はよぉ!」
安心したような笑顔のオスカー殿は、早速他の生徒に絡まれてました。まあ、打ち解けるのがお早いこと。不思議なもので、彼を中心にクラスが明るくなっておりますわ。私も微笑ましくなって参りました。
ああ、あちらのご婦人はあの家の。向こうのご令嬢もそうですわね。見知った令嬢達に、安心しましたわ。よく仲良くしてくださる彼女達ですもの。楽しくやっていけそうね。




