ブリジット嬢からの宣戦布告。
連日でございました。翌日の放課後、私はサロンの場所に呼び出されています。呼び出しされたのはブリジット嬢でした。こうして二人きり、対面することになったのですが。
「……あら?」
目に入ったのは、彼女の指に巻かれた包帯でした。手を怪我されていますわ!
「お手、大丈夫ですの……? あなたに何かあったりとか……」
前回のこともありますから。あなた、襲撃もされていましたから。またしても危険な目に遭おうというのなら。
「……」
ブリジット嬢は沈黙したまま。結構……長くなくて?
「……手を軽く切っただけ。料理してて。治癒の力、使うまでもないし」
「まあ……ブリジット嬢!」
私は心配と共に感銘を受けました。あなたは『聖女』――治雄の力にも長けていらっしゃる。でも何が何でも使うわけではない。ですが……。
「それでも御身は大事にしてほしいと、思ってしまいますわ」
その傷を治すのも、使用用途しては十分ではありませんか。本来ならばすぐ治療できるものでしょうに。
「……そんなことより。私、あなたときちんと話をしておきたくて」
これは本題、とも仰っています。お声も可愛らしく、笑顔なブリジット嬢。ですが、笑顔で威圧してくるとも申しましょうか。私の気のせいではないかと。
「単刀直入に聞くね? ――オスカー様のこと好きなの?」
「……っ」
あまりにも直球過ぎる質問。開幕早々ということもあり、私は心の準備も無くて。狼狽えてしまいました。それを見て『ふうん』と、ブリジット嬢が呟いています。
「……。なんだかなぁ。すぐに否定しないんだぁ。ふうん、本当に好きってこと? そうなの?」
ヒューゴ殿の時とは違い、今回のブリジット嬢は私を詰めようとしてきています。そんな彼女からは笑顔もすっかり消え失せていて。
「……そんなの認めないから」
もう偽りの笑顔などない。彼女にあるのは怒りでした。いつもの優しげな風貌も、もうありません。
「あなたが彼を好きだろうと。私は認めない――オスカー様は私がもらうから」
「ブリジット嬢……」
彼女からの宣戦布告でした。
「あのね、文が届いたの。おじい様に釘さされちゃったけど。でもオスカー様のこと気に入ったっていうし。まだ私の方が有利なんだからね?」
ブリジット嬢の強い眼差し。それほどまでの彼女の思い。
「……私は彼に助けてもらって。それからお話もして。本当に惹かれているの。彼を――愛しているの。気持ちの強さで負けてないんだよ。それにね? 私はあなたと違って――婚約者もいないわけだし?」
「……!」
これは……痛いところを突かれました。彼を愛するブリジット嬢に対して、私は彼を友人と思っている。ただ友情さえあればいいと。
「……?」
胸がちくりと痛んだけれど、この思いは友情。友情は恋愛に勝ると断言も出来ませんわ。
「……そうですわね。あなたが彼をそれほどまでに愛しているのだとしても」
そうだとしても。私は私で引けない事情があるのです。
「……とても清々しい挑戦状ですのね。あなた、潔くてよ」
「……は?」
私の言葉に、ブリジット嬢は顔を歪めます。どうみても不利な立場の人間が、わかりやすく虚勢を張っているのですから。
「私達の関係は友情に過ぎないとしても、そうですかとはなりませんわ。あなたが何を仰ろうと、どれだけ優位であろうとも。私は私なりに彼の側にいたい、悩める彼の支えになりたいのです」
私は私で強い想いがあるのです。易々と諦めるわけには参りません。
「……悩めるってなんなの」
納得がいかないと、ブリジット嬢は唇を噛み締めていました。
「なにそれ……アリアンヌ様が悩ませているんじゃないの。私といる時はそんなことないもん。いつも楽しそうにしてくれるもん!」
「ええ、そうですわね。そちらは認めざるを得ません」
強い語気のブリジット嬢に、私も同意しました。オスカー殿があなたといて楽しそうなのは、本当のことですものね。
「……もうっ!」
ブリジット嬢は怒ったままです。お怒りの状態のまま、私に背を向けて去ろうとしています。
「ブリジット嬢、あの――」
「私からは以上! 私もう行くねっ、約束があるんだから。オスカー様たちと遊びに行くんだから!」
話しかけようにも、向こうから切り上げられてしまいました。火に油を注いてしまいそうです。私は彼女を見送ることにしました。
「かしこまりました。ごきげんよう、ブリジット嬢……」
ああ、それにしても……羨ましい。オスカー殿ともですが、皆様とお出かけだなんて。級友たちとの交遊の機会ですものね。
「……」
ブリジット嬢は、何故か足を止められました。私が羨ましがっているのが、筒抜けになっていたのかしら。
「――タメ語、気にしないんだね」
「え、ええ……」
別の問いでした。今になってでありますわね。気にしないのは本当ですわ。すでにもう態度の急変は体験済みですから。私はうまく返答できたのでしょうか。
「……どうでもいいけど」
この言葉を残し、今度こそブリジット嬢は去っていきました。
「ふう」
一人残された私は溜息をつきました。私は――ブリジット嬢の本気を目の当たりにしました。
「お互いに譲れないものもありますものね」
五月にも入りましたし、『運命の日』も着々と近づいております。ブリジット嬢からの強烈な宣言があろうと、引き返せはしないのです――。




