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嵐の中のお届け物。

「……」


 時計は23時を回りました。私はバルコニーに続く窓に手をついてました。雨は止まず、激しいまま。


「もう、私の誕生日は終わってしまいますのね」


 楽しい一日でしたでしょう? 多くの祝福をいただけたではありませんか。私は――何を待っているというのでしょう。何を……望んでいるというのでしょうか。


「――寝ましょう」


 もう今日は終わるのです。私は消灯しようとしましたが――。


「――お嬢様、よろしいでしょうか?」


 ノックの音とメイドの来訪。新人でしたわね。どうなさったのかしら。私が扉を開けると、困惑した彼女がそこにいた。手にしているのは、プレゼント包装されたもの――私宛てのもの? 


「夜分遅くに申し訳ございません。今回のことは私の判断になります。今し方、オスカー様が来られまして――お嬢様の誕生日祝いにと」

「……オスカー殿が?」


 信じられません。私へお祝いを渡す為に、このような嵐の中で。私の誕生日に間に合うようにと……。


「本当にありがとう。明日、学園にてお礼を伝えますわね……それと、今回のことは私達だけの秘密にしましょうね?」

「……はいっ、かしこまりました」


 あなたには感謝していますわ。私が人差し指を自身の唇にあてると、メイドは溌剌とした笑顔を見せてくれました。そのまま彼女には下がってもらいました。部屋には私一人、明日に備えて就寝しましょう――。


「……オスカー殿!」


――嘘ですわっ! 

 私はバルコニーに続く窓を両手で開けました。私をうちつける強風、雨の勢いは止まらない。

 それでも私は居てもたってもいられなくて。バルコニーの手すりに足を乗せ、そのまま地面に飛んで着地した。敷地内を走り、立ちはだかるのは正門。なんのその、私は飛び越えたのでした。


 間に合ってくれれば。その思いで一心に走り続けたのでした――。



「はあはあ……」


 邸を出て、林道を走る。今になって考える。彼は馬車か何かで来たのかもしれない。追いつけもしないものかもしれない。それでも、私は気が済むまで走りたかった。


「!」


 しっかりとした背中。ずぶ濡れの姿。あなたは――。


「――アリアンヌ様?」


 私が呼びかける前に、彼は振り返った。息遣いと足音で気づいたのでしょう。


「オスカー殿……」


 彼は立ち止まってくれた。私は呼吸を整えながら、彼に近づいていった。


「オスカー殿。この嵐の中、ありがとうございました――」

「……って、アリアンヌ様!? ちょ、なんで? なんで来てるの!?」 


 オスカー殿は今になって慌てています。私が追っかけてきたのもですし、このずぶ濡れの姿も見てでしょう。髪は乱れてもおりますし、厚手のガウンも水を吸って重くなっていて。


「……こんな、雨の中で、大変だっただろうに」


 オスカー殿の途切れる声。私の姿を見ての心痛な声。いいえ、オスカー殿。


「……大変なのは、あなたでしょう。こんなにも顔を青くして」


 あなたこそが、大変だったのではありませんか。私の心配などしている場合ではないでしょう。

 そんなにも蒼白した顔で。招かれたのだから正装なのでしょうが、それも濡れているのと汚れてしまっていて。手にした傘もそう、この雨の中、機能しなかったのでしょう。


 あなたはこの嵐の中、ただ祝いの品を届ける為だけに。こうして……。


「……」


 冷えきってしまっている肌。水が滴る髪の毛。私は彼に手を伸ばそうとしたけれど。


「……失礼しましたわ」


 その手を引っ込めた。淑女あらざること――オスカー殿も、お嫌でしょうに。


「……ううん」


 オスカー殿のその眼差しは、私を責めることもなかった。ただ、私を見つめていて。


 ……いつまでもこうしてはいられませんわね。体調も崩されるでしょう。私の目線の先には、管理小屋がありました。そちらなら暖炉もありますし、薪も常備していたはず。


「オスカー殿。小屋までご案内します――凌ぎにはなりますでしょう」


 歩くのは少しだけですし、このままお帰しするよりはと。私は彼を先導することにしました。


「え……え!?」 


 驚愕されるのはオスカー殿。狼狽しながら留まっておられましたが。


「……風邪引かれる方が困るし。うん、行こう」


 お待たせ、と笑顔になって私についてきました。




お読みいただきまして、ありがとうございました!

明日も投稿予定です。

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