彼らが出席したのは……?
迎えたのは誕生日当日。天候は――あいにくの雨でございます。
「……」
固定ですの? 決まってますの? 晴れやかな気持ちで迎えたいのに、決まって私の誕生日は雨が降りますの……!?
廊下の窓越しに見える雨空。ああ、雷鳴が轟いておりますわ。ドレス姿にティアラを戴く私でございますが、滅入りそうですわ……。
「いえ、笑顔ですわよっ」
この悪天候の中、お越しいただいているのですから。皆、準備も整えてくださったのですから。明るい気分で参りましょう。
『――はい、そうですね。大体この時間に、照明が落ちるってことですよね。こちらで即、対処するようにしておきます』
イヴにも話を通しておきました。ヒューゴ殿、暗闇対策はしておりましてよ。少しの間だけ、耐えてくださいませ。
さあ、始まりです。開かれるのは大扉。その手をとり、エスコートをしてくださるのはお父様。公爵邸のロビーへと参るのでした。
輝くシャンデリア。着飾った紳士淑女たち。盛り上げてくれる楽団。
――私の誕生日にようこそお越しくださいました。夢のような時間を共に過ごさんことを。
夜会は続いてます。私は給仕からグラスをもらいました。一息つけますわね。
私は踊る彼らを見つめていました。皆様楽しんでいただけているようで、何よりですわ。ええ……くぅ!
「殿下……!」
私はグラスを握る力を強めてしまいました。割れるところでしたわ。
殿下のお姿はありません……ええ、あの方は来られません。欠席のご連絡も従者殿がこちらまで来てくださって、でしてよ? 従者殿の気まずそうなお顔、珍しいものでしたわ。
都合がつかなくなった? 違いますわよね? あなた様はブリジット嬢の誕生日に向かわれたのでしょう? 嬉々として招待状を受け取っているところ、私、目撃しましてよ?
「まさか……でしてよ」
渡すブリジット嬢もブリジット嬢ですが、彼女も何気に驚いているのでは? まさか、婚約者を差し置いて自分の元へ……とか。
それにしてもですわね。殿下は未だに――婚約破棄をしていません。
今回、ブリジットは王族を名乗っていない。陛下も介していないようですわ。なので、殿下も一歩及ばないのかしら……。
いえ、これくらいにしておきましょう。正直な話、理解の範疇を超えてますもの。
「いらしてないわね……」
殿下だけではなく、『彼』の姿もみえません。彼――オスカー殿もでした。
「――こんばんは、アリアンヌ様」
「ヒューゴ殿!」
正装姿のヒューゴ殿が挨拶に来られました。私も応じます。彼は公爵家直々の誘いということもあって、来てくれましたわね。
「お誕生日おめでとうございます」
「ええ、ありがとうございます」
ともあれ、祝いの言葉は喜ばしいものですわね。ヒューゴ殿も笑顔でしたが、やがて険しい顔つきになります。
「オスカー、来てませんね。連絡も無しですか?」
「……いえ、男爵家よりご連絡はありました」
そう、返事はいただいていたのです。彼の父君より――欠席すると。贈り物は男爵名義として届けられていましたが、父は受け取り拒否をしていました。
男爵家はきっと、バリエ商会との関係を望んだのでしょう。婚約者がいる私では望みが薄いと思って。公爵家に恥をかかせることになっても。
『……目先の金に眩んだか』
そうお怒りだったのは、私の父。私もそう思わずにはいられません。そこまで男爵は変わってしまった、堕ちてしまったのかと。
「……ここだけの話です。ブリジットの実家への婿養子、その話も出ているとか。それに一家丸ごと乗っかろうとも」
「なんですって……」
ヒューゴ殿が声をひそめ、教えてくれました。オスカー殿と結婚させて、バリエ商会の後ろ盾を得るということかしら。贅沢は出来ますものね……。
「……」
オスカー殿がこちらに来る利はありませんわね。ああ、このままでは……と、頭が堂々巡りになってます。
「アリアンヌ様」
私の名を呼んだのはヒューゴ殿。彼が差し出したのは手。
「色々お悩みがあるようですが、ひとまずは踊りませんか? こういう時は体を動かせばいいんです」
「……ヒューゴ殿」
「――主役なのでしょう?」
「!」
ドキリ、としてしまいましたわ。ヒューゴ殿の記憶にはないでしょうが、私がかつて言っていたことでしたから。
でも、そうですわね。この晴れやかな音楽ですもの。煌びやかな場ですもの。ヒューゴ殿も誘ってくださるのだから。
「……踊れますからね? 私だって貴族の人間なのですから」
「ええ、存じてますわ」
私がいつまでも手をとらないものだからか、ヒューゴ殿は拗ねているようで。私は思わず笑ってしまいました。
宴もたけなわ。夜会も終わろうとしています。途中の停電も、イヴの神対応によって事なきを得ました。私もヒューゴ殿の側についておりましたからね。
最後は父によるスピーチ。改めて私を祝ってくれる声。招待客をお見送りし、イヴ達従者も個人的にパーティを開いてくれて。美味しい料理に舌鼓も打ってました。
本当に楽しい一日でした。本当に――。




