廃校
ガチャン。
学校の駐輪場から新堂が自転車を出す。
夜の小学校だ。
夏休みを利用して、僕は同じ中学校の同級生といっしょにネットで紹介されていた廃校にやって来た。
「なんも無かったな」
期待はずれの声で新堂が言った。
僕も同意しながら、廃墟となった学校を振りあおぐ。
鉄筋コンクリートの三階建て。
使われなくなってから十年以上が経過しているが、まだ取り壊されることはない。
いわく取り壊し工事にかかろうとすると、必ず関係者に死者が出るとのことで、なかなか踏み切れないらしい。
おかげでこの数年で、無断で肝試しに訪れた無法者は数知れず。
更にうわさはうわさを呼んで、『探索中に一人増えている』とか『逆に一人減っている』とか、『宇宙人にキャトルミューティレーションされて頭を改造されてしまう』とか。
まことしやかにささやかれる、そうしたうわさの真相をつきとめてやろうということで、僕ら三人は電車に乗って、住み慣れた町からこの片田舎にやって来たというわけだった。
ところがどっこい、校内を見回っても、ソーシャルネットワークサービス(SNS)に出回っていたような怪奇現象は起きなかった。
ガッカリする新堂につづいて、僕も自転車を出すことにする。
「戸崎、僕のカギもおまえに預けてたよね」
自転車はレンタサイクルで借りたものだった。
なんでもかんでも管理したがりの戸崎が、「なくさないようにオレがみんなの分も持ってるよ」と、全員から回収してウエストポーチに入れていたのだ。
戸崎は僕たちより少しうしろから駐輪場をながめていた。
僕に声をかけられて身動ぎする。
カギを探して、ポーチからまとめてつかみ出したものを見つめて、戸崎が訊いた。
「あのさ、オレって、ちゃんと全員からカギもらったんだよな」
僕はうなずいた。
なくしたのかな? と心配になったが、戸崎の手には、ちゃんと僕の自転車と同じナンバーのカギがある。
戸崎はそれを僕に手渡してから、自分の自転車にもカギを入れた。
その時になって、ようやく僕は戸崎の隣りにも僕たちが乗ってきたのと同じデザインの自転車があるのに気がついた。
(僕ら以外にも来た人がいるのかな)
のぞき込んだ矢先。
戸崎があまった一つのカギを揺らして、僕と新堂に言った。
「じゃあ、もともとオレたちって、四人いたってこと?」
※この物語はフィクションです。
読んでいただいて、ありがとうございました。
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