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温泉回

 日帰り温泉施設は、箱根湯本の高台にあり、背後に山が迫っている。

 私たちは受付を済ませると、個室に案内された。「イブニングプラン 個室で休憩、ご夕食」というやつだ。


 施設の案内を見ると、露天風呂を含め、女湯だけでお風呂が7つもある。私たちは浴衣に着替え、まずはサウナに入ることにした。

タオル類を持って部屋から出ようとすると、「あ、ちょっと待って」と舞が声をかけてくる。私を洗面所の鏡の前に立たせ、髪をいじり始める。


「はい、できた。」

 舞はあっというまに私の髪を編み込み、アップにした。鏡には、同じ顔、同じ髪型の女性が二人並んでいる。スマホの自撮りでパシャリとした。


「整ったー!」と満足して舞はサウナを出たが、なんだか我慢比べみたいになってしまって、私はのぼせ気味だ。

 湯上がり処で水を飲み、しばし休憩。私が落ち着いたのを見て「食事行こー」と舞が声をかけてくる。

 海の物、山の物と品数豊富で、いかにも温泉旅館のごちそうを堪能した。朝は市場の食堂でがっつり食べたが、昼はお茶した程度なので、結構なボリュームの夕食を二人ともすっかりたいらげた。

 

 個室に戻り、座布団を敷いて寝そべり、食休み。

 少しウトウトして、夢を見た。私は小さなオフィスにいた。数人の若い男女が各々のデスクで何やら作業をしている。

 私の手元にはMacBook、目の前には大きなモニター。そこには何か、化粧品のパッケージのようなデザイン案が映し出されている。


 こういう仕事、こういう職場も悪くないな、と思ったところで夢は途切れた。舞が私の肩をゆすったからだ。

 「そろそろ行こう。温泉、第2戦。」


 室内の浴場で髪と体を洗い、屋外に出る。

 露天風呂が4つもあり、全部回っていると、それこそ湯あたりして疲れそうなので、石積みで丸く囲われた、小さめの露天風呂にゆっくり浸かることにした。

 山から吹いてくる秋風が頬の熱を冷ましてくれる。


 昨夜。

 残業途中に「お座敷」がかかって不毛な時間を費やし、帰途についた。寝過ごして終着駅、小田原で目を覚ます。

 それから、妹の舞と出会い、小さな旅が始まった。漁港での朝食、小田原城公園の忍者館。ピカソ館。そして今、ここに二人で温泉に入っている。

 めまぐるしい2日間だったな。体と頭を解きほぐすために、しばらくこうやって湯船に浸かっていたい。


 ぼーっと今までのことを思い返していると、ひとつの疑問が温泉の泡の様に浮かんできた。

 舞とは、終電の車両の中で出会ったんだ。

「ねえ、舞、あなた小田急線に乗ってどこまで行ってたの?」

 大きな石を枕に夜空を見上げていた舞は、その姿勢のまま答える。

「ああ、夕べ? 仕事の帰りだよ。やり残したデザインの仕事があって、夜遅くなっちゃったんだ。職場は横浜。相鉄線で海老名から電車に乗ったんだ・・・」

 舞はそこまで話すと、湯船に鼻先まで浸かり、しばらく黙っていた。


「そういえば、あの電車、少し変だったかも。金曜の夜なのに、わりと空いてたし・・・」

「それで?」

 私は先をせっつく。

「電車がホームに入って来たとき、先頭車両の行き先表示。確か『臨時急行00号 小田原行き』て書いてあったんだ。」

「臨時急行?」

 酔って疲れていた私は、行き先表示など気にもしていなかった。いつもの「マイ終電」の発車時刻だし。


「あ!」

 急に舞が叫び、目の前でガバッと立ち上がり、水しぶきが飛ぶ。ちょ、ちょっとそれ、第三者目線で自分の裸を見てるみたいで無茶苦茶はずかしいんだけど!


「き、急にどうしたの?」

「・・・瞑、行こう。今なら間に合う。」

「えっ?」


「終電に乗るんだ!」

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