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黄色いオープンカー

 服は、舞のものを貸してもらった。落ち着いたピンク色の、だぼっとしたパーカーと、七分丈でスリムなデニムのパンツ。クローゼットに架けてある服は、ほとんどカジュアル系だ。そう言えば、仕事は何をやっているか聞いていない。絵は大学の時の方がもっとうまく描けた、と言っていたので、学生ではないらしい。

 夕べ私が着ていたパンツスーツは、皺になること覚悟の上でバッグに押し込み、持ち歩くことにした。


 アパートの前の駐車スペースに停まっている黄色い車の脇で、舞は「こっちだよ」と手を振っている。私は彼女にバッグを預け、開けてくれたドアから助手席に乗り込む。舞はバッグをトランクにしまうと、運転席に座った。キュルルン、ブロロンと音をたててエンジンがかかる。天井についているバックルのようなものを外し、サイドブレーキ横のボタンを押す。すると、モーター音がして、フロントガラスと天板の間が空き、その隙間がどんどん大きくなり、頭上が明るくなっていく。天板は自動的にトランクに収納され、オープンカーに変身した。

「免許、持ってるんだ・・・それからこの車すごいね。外車?」

「ううん、コペンっていう日本の車だよ。ここ、海が近いし、箱根の山道を攻めたいし、そういのにちょうどいいかなって、ちょっと無理して買っちゃった。でも、われながらGood Choiceだと思うよ。」

 と言い、テヘヘと笑う。よく笑う子だ。


 車は、心地よいエンジン音を響かせ駐車場を出た。頭上は、濃く透明な青空が広がり、秋のひんやりとした風が心地いい。パーカーのポケットが何かがモコモコしていると思ったら、パンダくらげが潜り込んでいた。風に吹き飛ばされるのを怖がっているのか。

 小田原の市街地を抜け、海沿いの道路、西湘バイパスに出た。海の上では、朝早くからサーフボードが沢山浮かび、波待ちをしている。


 海沿いを走り、5分足らずで漁港が見えてくる。駐車場に車を停め(車、オープンカーにしっぱなしだけど大丈夫かな?)、漁港敷地内にあるお店の一軒に入った。


「何食べたい?」

 店内を見回すと、アジフライが美味しそうで、人気のようだ。

「そうね、アジフライと・・・海鮮も食べたいかな。」

「お、Good Choice! じゃあ、アジフライ定食と、海鮮丼定食を頼んで、半分こしようよ。」

 私たちはそれぞれ自腹で食券を買って注文した。できあがった食事を乗せたお盆を2階のテラス席まで運び、眺めのいい場所に陣取る。追加でもらっておいた取り皿に、それぞれ好きなだけ取り分け、二人とも無心で食べた。

 アジフライのふんわりとした触感と味わいといったら! この一皿が私のアジフライ史上、ナンバーワンに輝いた。


 食後。

「瞑、眠くない?」

「ううん、きれいな景色と潮風と、おいしい朝ご飯で、すっかり目が覚めた。」

「それは何より。ボクは波の音を聞いてたら眠くなっちゃうけどね。」

「え! 居眠り運転は絶対だめよ。」

「あはは。顔に潮風がビュンビュンあたるから大丈夫だよ。」

 舞とは昨日出会ったばかりなのに、なんだろう。この、昔からの顔なじみのような気楽な感じ、落ち着く感じは?


 車に戻ると、舞が提案する。

「ちょっと腹ごなしに小田原城で遊ぼう。」

 お城の見学が腹ごなし? と疑問もあったが、その提案に乗った。

 車は来た道を引き返し、海岸を右側に見て走る。

 夏の名残の日射しと、秋の風の涼しさを同時に体に感じる。

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