幕間3.エゴイストな先輩小説作家と作品相談-1
仕事から2日後、11月初めは未だに寒い
俺はサンライズヒル文庫の入り口に立っている
「(担当編集とはメールでのやり取りが主だったし、ここに来るのは久しぶりだな)」
大きめのビルの下に立ち、見上げる
本日は大事な先輩との話があってここに来た
「(アメノワタリバシ先生……)」
口に…いや、独り言筆談で出したアメノワタリバシ先生という方が今から会う先輩
俺がサンライズヒル文庫からのスカウトを受けて、会社での新人紹介の時にその時に“ちょっと挨拶をした”だけで実質初対面である、非常に緊張している
……まあ、初対面と言ってもスカウトを受けてここに来た時は、俺は声帯を痛めているから筆談をしていて
そして、小説作家は繊細で好奇心旺盛だから質問漬けされる予感がして逃げるように帰ったから、同じタイミングで入って来たスイートアイス先生と編集の人以外に知り合いがいない
首に下げているキーカード兼社員証を持ち入り口に入って行く
そこからは、サンライズヒル職員の方の案内によって進んで行った
ちゃんとアポを取っていたから、筆談であっても結構スムーズに進んで行き、そのまま開いている会議室へ案内された。
会議室内は防音壁で出来ており、内部での会話や相談は決して外には漏れないようになっている
なので、会議として使うだけでなく編集と作家の「内容の相談」などの大事な会話の時に使用されることもあるし、新人賞の審査にも使われる時もあるとか
室内には囲めば10人近く座れそうな大きなテーブルと椅子が置かれており、中心には飲み物が置いてあった、そして
「あちらがアメノワタリバシ先生です、それでは私は失礼します」
担当編集が指した場所には1人の男性……アメノワタリバシ先生がいた
今は集合時間の10分前なのにすでにその場にいた
編集の方が去って、その姿を見る
男性にしては髪が長く、大体俺ぐらいの肩ぐらいまで伸びている緑色、ボサボサなのも同じだ
そして目つきが鋭くて……三白眼と言うのか?そのような瞳をしていて少し威圧感を感じてしまった
服装に感じては、普通に部屋着の灰色シャツと黒くチェック柄の入った上着を着ている
会議室内は暖房がかかっているけど、それでも念入りに温かくしているような恰好をしている
…しかし、10分前としても先輩を待たせてしまったようだ
手話が伝わる可能性は低いからここは筆談で
「(待たせてしまったようですいませんでした!!)」
「えっあっ……いや、俺が早すぎただけだ
すまない」
初手いきなりで謝り合ってしまった
「(いきなり謝罪ですいません、私の名前はサンサン大海原です
本日は相談の機会を与えてくださりありがとうございます)」
「ああ、俺の名前はアメノワタリバシだ、始めまして…か?よろしくお願いします
先輩後輩の関係だけど別に言葉を崩してもいいぞ?」
「(いえ、あっていきなりタメ口はちょっとアレなので
でも先輩はタメ口でもいいですよ)」
「あ、ああわかった、よろしくな」
あれ?なんか違和感が?
「(あのー先輩?)」
「どうした?」
「(俺の筆談について、何か反応しないのですか?)」
「あー触れても大丈夫なのか?」
「(……気を使っていただいたのですね、ありがとうございます)」
いままで、初対面の人は俺の筆談のことについて驚いたり、興味を示したりする人が多かった
けれども気を使って触れなかった人は初めてだ…
事前に俺の事を聞いていたとしても、アメノワタリバシ先生は思ったよりも優しい人なのかもしれない
そういえばアメノワタリバシ先生は何かパソコンで書いている?
「(そういえばですが、先輩はパソコンで何を書いているのですか?)」
「ああ、これ?
今はネタ帳みたいな感じにして何かを思いついたらメモをするって感じだ
気にしないでくれ」
「(分かりました)」
俺たち小説作家は、作品の公開していない所が多い
例え友達同士であっても作品の内容の事は話せない時が多い
お互いの事は本名ではなく作家としての名前で呼び合うことが多い…らしい、作家の友達があまりいないから詳しくはまだ分からないけど
メモ帳のような扱いをするならパソコンの画面を視界に入れないほうがいいな…
取り合えず今まで立ったままだったからアメノワタリバシ先生の反対側に座ることにした
「さて、相談したいこと…とはいったいなんだ?」
「(はい……)」
ここからは、相談になる
けれども俺の相談したいことは、アメノワタリバシ先生に嫌われるかもしれない話
「異世界作品が苦手だけど、興味がある
そのための創作の相談」
あくまで噂ではあるけど異世界作品に対するこだわりがかなり強く、異世界に対する偏見などを持った瞬間に即ブロとかも聞いたことある
アメノワタリバシ先生は異世界作品「のみ」を書いているし……
わざわざ相談の場を用意しておきながら「苦手」と言って気を悪くしないかどうか……
いや、悩んでも仕方ない相談しなくては
「(異世界作品、について相談があります)」
「……ほう」
「俺に異世界のことを聞くのか」と言わんばかりの「……ほう」を聞いてしまった
聞くのがさらに怖くなるけど……
「いや、今の相槌を変に受け取ってしまったらすまない
サンサン大海原先生の作品は異世界作品が無いから、少し驚いてしまってな」
「(ああ、そうでしたか)」
普通に俺の作品のこと知っている!?
緊張が増えていくけど…けれども聞くしかない!!
「フゥーーー………(この前、「不可視の一撃を乗り越えて」の最終巻を書き終え、今年の終わりぐらいに発売予定です)」
「完結させたのか、すごいな」
「(どういたしまして、それで現在は軽くアルバイトをしながら次の創作に関して考えているのですが…行き詰っているのです)」
「行き詰まりか…それで異世界の相談ってことは、今までやったことの無いジャンルに手を出すってことなのか?」
「(えっ!?そこまでよく分かりましたね!?)」
「まあ、推理したって感じだ」
「(でも、ただ異世界作品の相談じゃなくて…その)」
「…何か言いにくいことがあるのか?聞かせて欲しい」
俺は一度深呼吸をしてお落ち着かせた後に、筆談用のホワイトボードに書いていった
「(実は俺は、異世界作品が苦手で見たことが無いのです
有名作品も先輩の作品も含めてです)」
「……」
言ってしまった、先輩の反応は!?
「どういった所が苦手なんだ?」
「(それは……)」
俺は異世界作品の苦手な所について説明した、以前にヒロへ話した事
人間関係のリセット、異世界に行ったら大体は二度と戻って来れないこと
今を生きている平穏が急に終わる事、友達も家族も二度と会えなくなること
もちろん、チートやハーレムとは一切関係のない「“異世界”」の苦手な所
親友に相談して、「キャラの過去に縛られる」よりも「新しい出会い」に目を向けるって言われた事
俺がぼつぽつと筆談で1つづつ教えている時は先輩は相槌をうってゆっくりと聞いていた
「(世界が変わってしまって人間関係がリセットされてしまうのが心が痛くなるから厳しく、関係の再構築というのも上手くできる気がしない、だから異世界作品は寂しさを感じてしまって苦手だ……と言うのが俺の異世界作品に対する苦手な理由です
もし不快に思われたのならごめんなさい)」
「……なるほどな」
アメノワタリバシ先生は一度考えるような動きをした後……話し始めた
「それなら行き来自由の異世界作品にしたらいいじゃないか?」
「(えっ…!?)」
異世界作品への苦手な理由を話すという大変失礼な理由を言ったのに思った以上に簡単に返答した!?
「どうした?何を驚いているんだ?」
「(いえ、苦手な理由を言っていたのに普通に回答するとは思わないくて
不快に思われて、この話の場が一瞬で終わると思いまして)」
「俺をなんだと思っているんだ…話ずらいってウワサが広がっているのは聞いていたけどここまでとは」
「(すいません、考えを改めることにします)」
「いや、俺の態度が悪い所もあるしな
まあ、もしサンサン大海原先生がチートとハーレムを異世界と一緒くたにしていたらここで話を終わりにしていたけどな
アンタが言っていた理由はちゃんと異世界であったから普通に対応をしているって感じだ」
サラッとバッドエンド直行の選択肢を示唆するようなのやめてくれ!!
「(それで、行き来自由の作品ってあるのですか?
本当に何も見たことなくて……食わず嫌いな感じに本当に一方通行の作品しか見たことなくて)」
「なるほどな、例えば俺の作品は……どれもほぼ一方通行だったな
俺の作品以外で例えるなら異世界〇堂のような特定の日だけ異世界で食事しに行って舌鼓をしながら人や文化の交流したりとか
アンタの作品は人間交流が多い、そうやって出会いとかありつつ元の世界と行き来が出来るのが最適だろう
急な質問だけど、アンタはゲームとかはやるか?ソロプレイとかではなくMMOとか友達とネット対戦とかは……」
「(ゲームは結構やりますし、ソロもマルチも関係なくやります)」
「そうかーそれだったら防〇りとかシャンフ〇とかデン〇ロのようにフルダイブのMMOゲームを参考にするのもいいと思うぞ、ステータス表記を書くのは面倒になるかもしれないけど目に見えて成長を描くこともできる
正直、俺自身もVRゲームを通り越したフルダイブゲームは本当にやってみたいって思っている
生きている時に開発されればいいけどな」
「(フルダイブゲームか……)」
先輩すいません、俺は現在進行形でフルダイブゲームのテストプレイをバイトでやっています
死んだり殺したりすることはありますが結構楽しいです
……そういえば、シャン〇ロは先週ヒロがチラリと言っていたような?
鳥の主人公と兎の仲間がいるんだっけか?参考にするのも普通に楽しみたいのもあって見てみようかな?
最初に見たVRMMOのは、突然ログアウト不可になって「帰れない!」ってなったのを見て
それから怯えてしまったのもあるし、食わず嫌いな感じで見ていなかったから行き来自由なのがあるのは知らなかった
「最近だとリアルでVRch〇tで別の世界でアバターを着ての交流、これも一種の異世界と呼べるんじゃないだろうか?
読んで参考にするのも逆に読まずに題材だけ聞いてヒントにするのもいいと思うぞ
この辺りから作れば、サンサン大海原先生、アンタの懸念している『人間関係のリセット』と言うのは全く起きないと思うぞ」
「(すごい……)」
「ん?何がだ?」
「(今の話を聞いて悩んでいた事があっという間にスッキリしたような気持ちになりました
本当にありがとうございます!)」
「ああ…………えっと……」
そう言うと、アメノワタリバシ先生は小指をだして顎をチョンチョンと2回タッチした
これって……この手話って!?
「アンタの事は前から聞いていたからちょっと手話も勉強しようと思ってな…『どういたしまして』って今のであっているか?」
「(はい!ありがとうございます!!)」
俺は、そのまま手話で…片手の手の甲を上に向け、もう片方の手を垂直に向けて上に上げた
「『ありがとう』か、まだ俺の知っている手話はこれぐらいだけど
人間は知らない言葉でも2000時間勉強すれば扱えるようになると聞く」
「(そんなに必要なんですか!?)」
「なに、1日10時間の勉強を200日繰り返せばいいんだ」
「(そんな簡単に言いますけど、書く時間はありますか?
サンライズヒル文庫では2年間作品を上げなかったら契約解除と言う決まりだったはずでは…)」
ライトノベルは大体、半年~3ヵ月で1冊上がる物らしい、俺は4ヵ月ごとぐらいで上げている
普通に作って行けば特に問題なく余裕をもって作れるペースだ
入院事故病気など不測の事態があるからサンライズヒル文庫では契約解除まで最大もう1年延ばすことは出来るけど、それでも「二度あることは三度ある」と言わんばかりに2年間も上げられないと3年目も上げられないから延期した所で…って編集の人からも言われたことがある
俺は今の所、スランプなどに陥ったことは無いから大丈夫だけど
「大丈夫、俺は基本的に“普通の”締切の3週間から1ヶ月前に原稿を上げている」
「(早すぎません!?俺は1週間前に上げているんですが!?)」
「“ガチ”の締め切りじゃなくて“普通の”だよな?」
「(ええもちろん)」
「ならそれでいいじゃないか、このままの調子で応援しているぞ」
「(ええ、ありがとうございます)」
……しまったな、せっかくこの場を用意していただいたのに、ものの十数分で相談終わってしまった。一応時間としては2時間ほど用意してもらっているんだけど…
「他に相談したいことはあるか?」
「(いえ、思った以上に早く解消すると思わなくて…ちょっと驚きました)」
「そうか、まあ折角の機会なんだし
時間があるなら俺と話でもするか?創作の事でも雑談でも」
「(そうですね、いい機会ですので)」
先輩と親睦を深めるのがいいのかもしれない、それだったらいいアドバイスを聞いたお礼として俺のとっておきの話を言ってもいいかもしれない
「(先輩、お聞きしたいのですが
俺がこの筆談状態になったキッカケについて気になりますか?)」
「え!?
まあ、気になるけど…それってデリケートな事じゃないのか?今日で初めましてのようなもんだし、そんな出会ってすぐに話してもいいのか?」
「(デリケートな事ですが構いません、先輩は別の人に話しませんよね?)」
「しない、信頼して話してくれた人の秘密なんて言えん。アウティングだっけか?デリケートなことを他の人に話すなんて感情移入のできないクソッタレな悪役がやる事だしな」
ふむ、気難しい人と言うのがなんとなく分かったかもしれない
味方であったら親身になって心強い感じがするけど
敵だと分かったらバッサリと切り捨てるような、両極端な感じ
そんな感じの性格なんだろうか?
「(ってアウティングは違いますよ!アウティングは LGBTQ+を周囲にばらして広げる事ですってば!)」
「あーそうだったか、すまない、んで
聞いてもいいのか?筆談の理由を」
「(はい、大丈夫ですよ
アレは…俺が1歳にも満たない年齢の時ですが)」
俺は、筆談になったきっかけと
それと一緒に狂った性格と大切な家族と幼馴染のことについて話すことにした
富宝先生に話したことと同じ内容の事を




