幕間1.精神科医兼眼科のカウンセリング-1
ログアウトをすると、睡魔に襲われる
何か俺の体から魂が吸い取られるような…いや戻されるようなよく分からない感覚がある
分からないけど、フルダイブから体に戻る感覚と言うのはこんな感じなんだろうか?
少しずつ体中の五感が戻っていく、全身の神経に力が入って行く
五感の中で聴力が戻った時に何かぱちぱちと音がする
これは………拍手か?
まぶたが動くようになり目を開けると天井のライトがまぶしい
腕で目をこすりながら上体を起こすと、研究員達に囲まれていて拍手していた
「すごい!」「素晴らしい研究成果だ!」「本当にここまでの結果になるとは!」
俺はとっさに近くの籠に入っていた筆談道具を取り出して会話を始める
「(すごい…まさかSF作品で見るような科学者さん達の拍手…
本物を聞けるとは!)」
「あっ、そうですか、お恥ずかしい限りです……」
しかし、しばらく接続されていたから少し体の動きが鈍い感じがする
あのダイブ装置の負担なんだろうか?
打って変わって視界は綺麗に見える、あのフルダイブ世界は作られていながらも何もかもがリアルであったが本当のリアルを見て綺麗に感じたのだろうか?
「ああ!無理をして動かないでください!
今から医者がやってきて体中に異常が無いか調べますので!」
「(わ、分かりました)」
お急ぎで研究員の人達から上着を羽織られて少し待つことにした
時間を聞いてみるとフルダイブしてから6時間弱もの時間が経過していてもう昼を超えていた
それを聞くと急に腹が減ってきたな……
でも健康診断があるということでちょっとの間、我慢することに
キョロキョロと周りを見渡してみると1つの機械が目に入った、モニターに何か文章のような書かれているがアレは………ちょ!?
俺は咄嗟に目を逸らしてしまった、その機械は俺の頭に接続されていた機械と直結しており……俺がゲーム内で考えていたことが多分そのまま書かれていたからである
……見なかったことにしよう、正直恥ずかしいし
それからは医者の人にストレッチャーで運ばれて診察室のようなところにやってきた、ここで健康診断…と言うよりも人間ドックぐらいの結構な数の検査を行った、体自体は結構健康的でほとんど異常が無い
フルダイブの影響で全身の筋肉にかなりの疲労があったけどちゃんと休めば問題ない結果なのが分かった、それならちゃんとストレッチもしなくては
人間ドックが終わるとようやくお昼、もう歩ける感じはするけど念のためにとSPの人に車椅子で運ばれ研究員達の社員食堂で食べれることに、お昼を思いっきり過ぎてはいたが出された料理は主食副菜主菜汁物……結構バランスのいいご飯になっており「(いただきます)」と食べれば栄養満点!毎日通いたいと思った
「(しかし、あの世界で殺したり殺されたりしたからこのハンバーグを食べるのはちょっと躊躇してしまう…)」
なんてこっそりと独り言筆談をしながらちゃんと残さず食べる
食堂の人に大きく「(ごちそうさまです!ありがとうございました!)」とあいさつをした後は………車いすは終わってようやく自分で歩けるようになった、少し足がピリピリするけど歩行に支障はなさそうだ
「(この後はカウンセリングですか?)」
「はい、フルダイブには肉体と精神に異常がある可能性があるので先ほどの人間ド………健康診断みたいに異常が無いか確認をします」
人間ドックって言いかけなかった?別に隠す必要性はないと思うけど…
「それが終わりましたら今回の日給を渡しまして本日は仕事終わりです、その時はまた1週間後によろしくお願いします」
「(はい分かりました!)」
「………ところで」
隣に歩いているSPの方はサングラスをかけているけどなんとなく表情が曇る
「その………今から出会うカウンセラーの人はちょっと特殊な人でして、悪い人ではないんですけどあー…」
「(特殊とは?)」
「人には色々と性的思考が多くてですね…これからお世話になる富宝 雁陣先生は目に対する執着が強くてですね、危ないことは決してしない人ですが不快に思われたらごめんなさい」
「(大丈夫ですよ)」
俺が特殊な人だからなんて書きかけたけどそれは飲み込んだ、しかし精神科医なのに不快になるっていったい…?
一度ロッカールームに行き着替えと持ち物回収を済ませて、そのまま歩いていく1つの部屋に案内される
「こちらです、後は先生の指示に従ってください」
「(分かりました)」
そう言ってSPの方は一度ノックをして「入りますよ」と言うと中から「ああ、入りたまえ」と初老の男性の声が聞こえた
カンペに「(失礼します)」と書いて一礼しながら室内に入って行く
室内には細身の初老の男性がいた、そばかすが付いていて紫の髪はあまり生えていなくて額が良く見えている………そのせいで、よく見えてしまった
頭を下げながら部屋に入って、頭を上げてその男性姿を見ると彼は光のともっていないその瞳で俺の目をしっかりと見ていた。たしかに、「人の目を見て話せ」と学校で学ぶとは思うけどそれでもここまでしっかりと見られてしまうと少し体がこわばってしまう、とにかくこの部屋に入った時点でその富宝先生に常に見られてしまい何か落ち着かない
「こんにちは三海山君、話は聞いているぞ」
それにもう1つおかしなことに気づいた、お世話になったことがあるから分かるけど精神科医というのは実を言えば体がゴツイ人が多い
精神病を患っている人の中には、体格のいい男性がいることもあって……そのような方がもしパニックになって暴れてしまった場合フィジカルが強い人でないと誰も手が付けられなくなる、精神的にも肉体的にも強くないと精神科医になれないなんて実際に聞いた
富宝先生は全然細い体をしている
ゆっくりと椅子に座りながら富宝先生と向き合った
「無理を承知で言わせてもらうがワタクシの視線に関しては気にしなくていい、難しいなら明後日の方向を見ながら話せばいい」
「(はい、わかりました)」
「…言われた通り本当にアナタは喋れないのだな?」
「(はい、昔に色々とありまして喋れなくなりました)」
それからはカウンセリングが始まった、最初こそ俺は見られているのもあってずっと警戒していたけど話しているうちに結構安心感があった
やっぱりカウンセラーは本当に偉大だ、心の中にあった壁が静かに無くなっていく、心を掌握されているのかもしれないけどそれでもいいという感覚になっていく
あのフルダイブにて感じた感覚についても事細やかに話した
残酷なエンディングのことを拒絶でもなく受け入れることでもなく経験として楽しんだことを話すと………
「(もちろんリアルでは絶対にやりませんが、あの世界で経験した事…殺した経験も殺す経験も『この経験を知れてよかった』と思ってしまいました。俺はおかしいのでしょうか?)」
「決しておかしくはない、その行為そのものがちゃんと犯罪と理解しているならおかしなことは無い
そして好奇心は誰にだってある、ワタクシも瞳に関する好奇心は強く現に今でもアナタの瞳を常に観察している」
「(はい、だんだん気にならなくなってきました)」
「ああ、ちなみによく勘違いされるがワタクシは決して瞳を摘出して奪い取るような下品な猟奇的殺人鬼とは決して違う!ワタクシは人の瞳として命のある目が好みなのだ!」
「(だからこそ、犯罪をする気はないということですよね?)」
「その通りだ!」
趣味や性的思考は強要したり別の人に迷惑さえかけなければ別に俺は何も言わない
富宝先生もそれを尊重しているらしくて安心した
「ふむ、診断の結果アナタの精神は問題がなさそうである」
「(そうですか、ありがとうございます!
そういえば質問があるのですが…これは企業秘密だったら聞くのは諦めます)」
「ふむ、言うだけ言ってみてくれ」
本当は研究員の人達に聞こうと思ったけど単純に忘れてしまっていたこと
相手は精神科医ではあるけど、あのダイブ装置の精神負担のカウンセリングの為に呼び出されたならちょっとあの装置の作成に関わったしたかもしれないなら聞くだけでも聞いてみたい
「(この仕事の契約書にて『99%の可能性で生きれるけど1%の可能性で死ぬ』とありましたがそれはどんな死に方になりますか?
ダイブしていた時に何も『本当に死ぬ要素』と言うのを感じなかったので来週以降に気をつけたいのですが…)」
「ふむ、それは私の専門分野だ詳しく教えてあげよう」
まさかの専門分野だった、これは運がいい!
「脳の誤認識と言うのを聞いたことあるかね?」
「(……名前だけはあります)」
ぽらしーぼ?とか?さぶりみなる?とか?っていうのだっけか?
「もしくは…『人は思い込みだけで死ぬことができる』って聞いたことあるか?」
それは聞いたことがある
「(はい)」
「契約書上には『人体実験に近いこと』と書かれていたが
君が郊外に言わない契約をしている以上、はっきり言わせてもらうがこの装置が現在の状態になるまでに何人もの犠牲があったんじゃ」
「(それは……いわばSFであるような死刑囚を扱った実験とかですよね?)」
「もちろんだ、どんな人でも命は平等なんて考えていないなら安心してくれ…」
この実験に関わっている以上、文句を言える立場じゃないし
本当に死刑囚を扱った人体実験ってあるんだな…不気味な恐怖感を感じたけどその感情も楽しんでしまう
「そう言った犠牲の上で今の出力だとかに安定しているのだ
だが、それでも安定することのできない物がある」
「(それはいったい何でしょうか?)」
「あの世界での経験は結構リアルなものだっただろ?死ぬ経験と言うものがな?」
「(はい、先ほども話した通り『経験して良かった』と思うほどリアルなものでした)」
「普通であったらゲームで死んでもゲームオーバーになるだけでコンティニューしてまた次を始めるだろ?たとえゲームの主人公が死んだとしてもプレイヤーには一切の危害はない、反射的に『いてっ』って言うことはあるかもしれないけどそれで本当に痛くなるわけではない
だけどフルダイブは同じゲームでも実体験と同じようなものであって、そこで行った殺人も殺されるのもリアルなものになっている」
たしかに、俺も感受性豊かな所があるから主人公の受けたダメージを代弁するかのように筆談発言してしまうことも多い
「あの世界で死んだときに……思い込みの激しい人がもしプレイをしたときはフルダイブでの死亡すると本当に自分が死んでしまったと思ってしまい脳が体の機能を停止してしまう人もいるのだ」
「(つまり、その思い込みが1%の死亡する可能性ということですか?)」
「そうじゃ、漫画とかにあるような蘇生手段はこの世界に無くてなAEDなどの蘇生処置を行っても生き返るのは確実ではない…と言うよりもゲーム機に蘇生機能をつけようにも小型化を狙っているのにコストが爆上がりになるし何よりも『死ぬ可能性のあるゲーム』なんて誰がやるのだろうか?」
それなら………何度も死ぬ経験したけど今普通に生きている俺は大丈夫ということだな
ここまでの技術の発展…本当に頑張って欲しいな
「そのような夢もあるがワタクシにもここで働くうえで夢がある」
「(夢…それはなんでしょうか?)」
「ここでは未来の発展のための開発や研究を行っているだろ?
ワタクシは精神科医を行っておるが実は目の医者も行っておる」
「(それはなんとなく予想通りですね、好きこそ物の上手になれと言う意味で予測していました)」
「それもあるが、目は口程に物を言うと言うではないか?私は相手の目を見るだけでどんなことを思っているか何となく分かるのだ」
その理論はよく分からない
「世の中にはこの世界を見たことが無い人、要は目が不自由な人の視界に色をともしたい
完治を行いたいのだ」
「(その夢は…本当に素敵ですね)」
富宝先生の瞳には色が無かったけどそれでも夢に本気だという気持ちが伝わってきた
SPの方が心配していたけど富宝先生は素晴らしい人だと思う
「ふむ、ワタクシたちのことについて色々と話しただろ?その代わりと言ってななんだが…質問が2つある
だがプライベートな事であるなら無理をして聞かないでおこう」
「(分かりました、言えるだけ言ってみてください)」
「アナタが筆談になっている理由、それとそのような経験を愉しむようになったキッカケが知りたい」
この話はたしかに思いっきりプライベートな話だ、俺が話したことあったり知っているのはヒロとセイとそれぞれの両親と後はそのときのカウンセラーにしか話したことない内容だったな…
でも、富宝先生に話してもいいと思う
「(分かりました、長くなりますがそれでもいいですか?)」
「構わない、アナタの気の済むまで時間の許すがぎり聞こうではないか」
俺はゆっくりと書いて語り始めた




