undeniably happy was
女子高生ちゃんの切ない失恋話です。もしよかったら読んでみてください。主人公は高校二年生の設定です。
わたしじゃない女子とあいつが手を繋いでいるということを、脳がすぐには理解できなかった。
音を立てないように、わたしがいることがばれないように、教室からそっと離れた。
わたしは今日この日、ある大きな目標に駆り立てられて、一日頑張っていたんだ。
なのに、ね………。
あいつの隣にいる権利を、わたしじゃないあの子がもらった。あいつは自分の隣に、わたしじゃないあの子を選んだ。
二人は楽しそうに、照れくさそうに笑い合って、黄色い夕日に包まれた教室でたえず何かをしゃべってる。
なんだか、高校生の青春のお手本みたいだね。
二人のために用意されたシチュエーションなんじゃない?
なんかのポスターにでもなればいい。
……すごく、輝いてるね。
でも、その笑顔、その子じゃなくて、わたしに見せて欲しかったよ。
笑顔だけじゃない。
いろいろな顔を、わたしに見せてくれると思ってたよ。
誰にも言われてなかったけど。
むしろ、どうせ無理だから諦めろって言われてたけど。
わたしの勝手な妄想だったけどさ。
毎日毎日、勝手な妄想膨らましてさ、わたし本当に頭がおかしくなってたんだね。
その子はさ、あんたにとって大切な人? 大切だから優しくするんだよね。なんでわたしにもあんなに優しくしたの?
わたしああいう経験あんまりなかったんだから。
ほら、好きになっちゃったんだよ。
ううん、あいつはみんなに優しいんだった。
そうだったね。
あ、もしかしたら………。
ちょっとの可能性みたいなのが、わたしの頭をよぎる。
さっきはちょっと教室の中を覗いて、すぐに廊下に引っ込んだから、一瞬しか見ていないんだ。二人の姿。
戸も空いてなかった。戸の窓から見ていたから、きっと気づかれてもいないはず。
一瞬だけ、一瞬だったからさ、アレしか見てないからさ。
もしかしたら、全然、二人はそういうんじゃなくて、たまたま、手が触れ合ったとか。そういう。
ああ、ダンスの練習とか。あの、今度の授業で二人一組でやる。
……なんて、そんなはず、ないよね。
第一、ダンスだったらこんな時間に練習する必要ある? しかもあの子と? それこそ変だよ。
いくらあいつがダンスが下手でも、きっと練習なんて面倒くさがるよ。
だから、つまり二人はやっぱり………。
じゃないと、だってあんな楽しそうな顔。手の繋ぎ方。
あ、そっか、あれ、恋人繋ぎだったんだ。
もう、ガッツリ繋いじゃってさあ……。放課後の教室なんて、誰かが急に来てもおかしくないのに。
はあ………。
こうやって、わたしの春は終わった。
梅雨が終われば、夏がくる。
夏はわたしの中で、最も青春っぽい季節といえる。
まあでも、そこに恋人がいたなら、どの季節だって青春だよね。
夏が、来ちゃう……。
夏は、暑いから、なにをしようかな。
海に行きたいな。冷たい水に触りたいの。
ああ、プールもいいな。水着、かわいいの買いたいな。水着になるんならダイエットもしないと。
あとは、やっぱりお祭りだよね。たくさん出店まわって、今年はチョコバナナとか、たこ焼きとか食べたい。花火は綺麗だろうな。
ああ、楽しい夏が、来る……。
でも、ぜんぜん、嬉しくない。
嬉しくない
嬉しくない
嬉しくない
来ないで 来ないで
夏とか、わたしには、もういいから。
あいつが、いないから。
ううん、あいつはいるんだけど。
あいつに、彼女ができたから。
誰かのものに、なっちゃったから。
これじゃあもう、妄想ができないね。
ひょっとしたら、わたしのこと……って妄想が。
さっき見た映像が、頭に流れてきた。
ああ、あの子の髪、短かったな。
結局、ショートが好きだったの?
わたしが去年、イメチェンしようと髪を伸ばしてみた頃、あいつは「いいね、似合ってる」みたいなこと言ってくれた……のに。
ずっと、この髪型はあいつが好きだと思ってたから、髪は今でも伸ばしたまま。
だけど本命彼女は、髪が肩にも届かないさらさらショートでわたしより肌も白くて綺麗で、足もすらっと長くて美人でしたって……。
あーーーーー、ダメだ。こんなの無理だ。
苦しい。息ができない。
あのね、今日は、いつもより気合い入れて髪もセットしてたんだよ。
だって、今日は、
告白しようと思ってた。
思ってた
思ってた
思ってた
朝、いつもより早く起きて、スキンケアとヘアセットした。
動画見て、やったことない髪型した。
メイクもちょっとだけした。普段あんまりやらないし、苦手だけど、けっこう可愛くできたと思った。
鏡に映ったツヤのあるローズピンクの唇を見て、自信が持てた。
最後に、鏡に向かってつぶやいた。
「……好き」
そのあと一日、魔法にかかったみたいに頑張れた。
わたしはきっと大丈夫って。
思ってた
思ってた
思ってた
ああ、さっきは早足で階段降りて、靴履き替えて。
昔よく遊んでた、今の時間は誰もいない公園に来ちゃったわけだけど。
木でできた、ちょっと洒落た見た目のベンチに座って、もうずっとこうしてる。
わたし今日、クッキーも作ってきてたんだから。
昨日作って、ラッピングした。バレンタインでもなんでもない。重いって思われるかもしれないけど、気持ちと一緒にこれも渡すつもりだった。
ああ、こうしてたらさ、
わたしの姿をたまたま目撃した男子が来て、「どうしたんだ? こんなところで」
みたいなのがあったっていいじゃない。
そしたら、カバンに閉まってたあいつに渡すためだったクッキーを、その男子に半ば強引に渡すの。
それでわたしは泣きながら、ちょっと話聞いてもらったり。
そこから始まる恋だって、いいじゃない。
はあーーーーー。でも誰も道を通らない。おばあさんの一人も。
何か、お腹空いてきちゃった。
もう、一人で食べちゃうんだからね。
カバンを開けて、ガサガサとクッキーのラッピングを取り出した。リボンを解いたら、手にしずくが一粒落ちた。
えっ、あれ、ねえ、なんで泣いてるのわたし。
ようやく一枚手につかんで、口に運ぶ。
サクッとして、ほどよい甘さとなめらかさだった。
ああ、美味しいじゃん。
こんなに美味しいなら、やっぱりあげたかった。食べて欲しかった。
はあ、なんであんなに好きだったんだっけ。
あいつの、一体どこに惹かれてたのわたしは。
まったく、わたしには、もっと見合う相手がいるでしょうに。
もういい、忘れよう。
あー、美味しい。美味しい。
ダメだ……。
やっぱり、忘れられない。
あいつと初めて話した時のこと。
あいつがノート写させてって言ってきてノート貸したこと。
体育の時わたしが膝擦りむいちゃってあいつが保健室まで一緒に行ってくれたこと。ほんとにあの時は夢かと思った。優しすぎて、わけわかんない。
あと文化祭の準備の時、あいつの鼻に絵の具ついてたから、こっそり教えてあげて、二人で笑ったこと。
ダメ………。楽しかった思い出が、あいつの笑顔が、頭から離れない。
うん、好きだった。すごい好きだった。
わたしはいい子だから、あの子からあいつを奪おうなんてことは思わない。
だってあいつの幸せを奪いたくない。
あいつがあの子を選んだのなら、わたしは二人を祝福するんだから。
涙が、とまらないよ。
わたしは、あいつを好きだった。
ずっとずっと好きでした。
夕日が沈みかけて、辺りには涼しい空気が漂っている。
ねえ、でもありがと。
失恋ってこんな味がするんだ。
ほんとに苦いんだね。あと、ちょっと甘いかも。クッキーのせいじゃないよ。
失恋の味、あなたが教えてくれた味……ってことでいい?
まるで幸せの中にいた春が終わる。
あーあ、楽しくない夏が始まる。
読んでいただき、ありがとうございました。