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なろラジ5参加作品

文化祭後に、菊は咲かない

掲載日:2023/12/07

「最後の文化祭?」

「ああ、俺の母校。廃校になるらしいんだ」

「ふぅん」

「で、懐かしいから、卒業校を案内したい」


 次のデート先が自分の母校の文化祭だなんて、ダサイ男。


 そう思ったけど、にっこり微笑んで同意した。


 有名企業に勤める彼。

 そろそろ私に結婚を申し込んでくる(はず)

 機嫌損ねて逃がしたくない。


「わかったわ。貴方(あなた)の母校なんて楽しみ」


 頷いたのが先日。

 私はいま、退屈な高校で菊を見ながら歩いてる。


「在校生が毎年育てるんだ。大輪を咲せるのは大変なんだよ。土から用意するし」


 彼の案内のまま校舎裏に進むと、見上げる程の枯れ葉の山。

 菊に使う腐葉土を作っているらしい。


 辺りは無人。

 生徒の催しは、表校舎のみ。


 彼が立ち止まって、振り返った。


「学生の頃、ここで意中の彼女に告白した」


 ムッ、なぁに突然? 別の女の話。

 もしプロポーズの前振りなら、センス無さすぎ。


「嬉しかったよ。里美ちゃんからOK貰えて」


「っ! 里美ちゃん?」


 どきりと心臓が跳ねる。

 偶然よね?


「どうしたの? 顔色が良くない」


「だっ、て、気分悪いわよ。私という花嫁候補の前で、元カノの話。しかもちゃん付けで呼んでるなんて」


「へえ? 朱璃(アカリ)さん、俺の花嫁になるつもりだったんだ」


「え?」


「意識の違いだね。俺は(キミ)のこと、"彼女"だと思ったことすらないよ。──岡鞍里美、この名前、知ってるよね?」



 彼は何を言っているの? 何を言い出したの?



 岡鞍里美、同じ職場で目障りだった女。

 いなくなれば良いと過度な嫌がらせを繰り返し、ついに退社させて喜んだ直後、訃報を聞いた。


 精神を病んで自ら……とか噂があったけど。


 私には関係のない話。

 心の弱い女、ざまぁ、と思って、すっかり記憶からも消し去っていた相手。


 その女の名前が、どうして今、彼の口から出るの?



「里美ちゃんとは結婚する約束もしてたんだ」


 落ち着いた彼の声が、いつも以上に硬質に聞こえる。



 何、なになになに?



 私の全身が、怖気(おぞけ)を感じて警鐘を鳴らす。



(彼の空気が異様だわ!)



 慌てて踵を返した。

 人が多い場所へ早く。



 ブォ──ッ!


 高らかなブラバンの音が鳴る。

 今日のメインと言われてた演奏が、始まった?


 人はそっちに集まってる、そこまで走れば。



「っあ……!」

 


 音が響く。遠く向こうで。

 声が(ささや)く。耳の真横で。



「この腐葉土が来年使われる予定はない」



 意識が(かす)れる……。



「どっちが先だろうね? 校舎の撤去と、人が腐るの」



 最期に、聞こえた。


「君は花嫁どころか、菊の花にもなれないよ」




 お読みいただき有難うございました!


 実は今回のなろラジ、最初に書いたのはこのお話でした。

 でも初手がバドエンなのもなぁ、と先に昨日ライトなハピエン『雪山に、閉じ込められたから』を投稿しました。トーンがガラッと違って申し訳ないです(;´∀`)


 朱璃と里美が生きているルートを下記にご用意しております。

 このままの余韻が良いという方は、SS750文字を飛ばしてスクロールください。


 お話をお気に召していただけましたら、下の☆を★に色付けいただけると嬉しいです(´艸`*)

 挿絵(By みてみん)



---

(何なのよ、一体!)


 ムカムカする思いを抱えながら、舗装を蹴るように足を運ぶ。



 私は、生きていた。


 あの後。

 文化祭終了後、倒れているところを学生に発見され、殺されかけたことをすぐさま警察に訴えたけど──。


 逆に私の薬物所持を調べられる結果となった。


 なぜなら、今回の加害者で恋人だったはずの喜久原大也が、存在してない男だったから。


 卒業名簿にも、勤務先の企業にも該当者なし。

 そんな馬鹿な。私、あいつのマンションにも行ったし、社員証だって、他にもいろいろ……。


 そのすべての痕跡が消え、まるで夢だったみたいに残ってない。



 それに死んだと思っていた岡鞍里美。

 彼女も生きていた。



 訃報は彼女の親の話で、岡鞍里美はそれを機に、以前から話のあった縁談を受け、嫁いだらしい。

 退社と訃報の時間は、前後していたのだ。所詮は噂話、ガセが多い。


(つまり寿退社だったってわけ? 相手は親戚だか幼馴染だか知らないけど、名家の御曹司なんて、あの女には不釣り合いよ! 若奥様とか呼ばれて、趣味の園芸に勤しんでるだなんて、腹が立つ!)



 結局、倒れた原因は「貧血だろう」とか言われて、警察は早々に私の件を打ち切った。今も取り合って貰えず、追い返される始末。


(納得がいかないわ)


 でも。


 あの時感じた恐怖と殺気は本物だった。

 もしかしたら私は、触れてはいけない世界に触れたのかもしれない。


(もし、本当に岡鞍里美が命を絶っていたら……、私の命も、絶たれていたかも……?)



 ゾクリ。


 想像に、背筋が凍った。


(警察も介入出来ない相手だから揉み消された、とかじゃないわよね?)


 そんなドラマみたいな大物が転がってるなんて考えられないけど。


 ひとまず腐葉土に埋められずに済んで安堵した私は、翌朝の出勤で企画から倉庫作業に回されたことを知った。

 過去の嫌がらせが、バレたらしい。


 悪夢はまだ、終わっていなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おー。この女、ろくな奴じゃないと思ったら、やっぱりそういうことかー。 そして、救済続話(?)があって、よかった♡ 面白かったです。
[一言] どちらのラストも最後にぞわりと来るものがありますが、余韻を楽しむにはバドエンの方でしょうか。 こちらの方が、彼のセリフが刺さってきます。 でも一番怖かったのは朱璃さんの言う「適度な嫌がらせ」…
[良い点] ギャアー!ブラックみこと。さんが出たーーーー!(((゜д゜;))) [一言] 後書きナシもアリもどっちもきちんと成立してるし矛盾もifもないし(本編分は文字制限もあるけど、ハッキリと死亡描…
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