きこえる
その日私が地元の駅についたのは、日付が変わってからだった。
大好きなバンドのライブに参戦した為だ。
いつもは友人と一緒だったから気にならなかったが、田舎への終電の車両内は人も少なく静かだった。
駅前の店はコンビニ以外は全て閉まっていて、明かりがついてるのはコンビニと交番のみ。
しかもタクシーは1台もとまっていない。
「あー、こっから歩きかぁ」
両親は仕事が朝早く迎えは頼めない、頼みの綱のタクシーも居ない。
タクシーだったら10分もかからない距離。
歩けば30分はかかるだろうか。
終電から降りてきた人は誰かが迎えに来てたり、駐輪場へ向かって歩いている。
徒歩で帰ろうとしてるのは私とスーツを着たおじさんだけ。
おじさんが何かしてくる確率は低いけど、後ろ歩かれるのは恐いし私がおじさんの後ろを歩くことにした。
友人が都会で一人暮らしを始めてから初のライブだった。
帰りがこんなに寂しいとは思わなかったなぁ。
そんな事を思っているとおじさんは一軒家の前で立ち止まり、カバンをゴソゴソした後、ガチャリと音をさせると鍵を開け玄関の中へ消えていった。
「おじさんとはココでバイバイか、警戒しまくっててゴメンね、おじさん」
ここから先は1人
「え、まって怖すぎ」
ブー ブー
「うわっ!」
怖くなった瞬間に限って携帯が鳴るのは何故だろう。
「もしもし、みっちゃん?」
『ユキちゃん無事に家ついたー?』
「ねぇ、きいて!今日に限ってタクシー0台だったの最悪」
『まじかー、最悪じゃん』
「そうなの。だからまだ家ついてない」
『まじかー、怖くない?大丈夫?』
「さっきまで前におじさん居て警戒しまくってたけど、今はもう居ないから平気」
私が笑いながら言うと『まじかー』て笑いながら言う。
【まじ】が口癖のみっちゃん。
電話してきてくれて嬉しい。
「このまま家つくまで電話してて欲しいんだけどー」
『ユキちゃん寂しがりだもんね、いいよ!』
「えーんアリガトー!みっちゃん大好き〜」
『まじか!』
ん??
「ねぇ、みっちゃん今家だよね?」
『そうだよー』
「誰か一緒?」
『まってまって、え、急に怖いこと言わないでよナニ何で!』
「なんか女の人の笑い声が」
『怖い怖いこわ「ほら今も!」
みっちゃんが怖い怖いと言ってる後ろからキャハハって女の人の笑い声が聞こえて、さっきのは聞き間違いじゃなかった事に私まで怖くなった。
『なんだー!びっくりした!今のはTVだよ!』
「え?」
『今のは、TVの声だよマジでビビったよ』
深夜にやってるバラエティから聞こえた笑い声だったらしい。
「心臓飛び出るとこだった…」
『いやマジでそれな〜』
「てか!今日のライブ最高だったよね!」
『最高だった!センター3列目の前だし前に背が高い人居なくて!』
「それ〜、てかTVの音大きくなってない?」
『いやいや、TVもう消したし!なんならユキちゃんの後ろ?の人の声のが大きいでしょ!』
「…え?」
『ずーっとケラケラ笑ってて、急にべらべら喋りだしと思うとまたケラケラ笑ってて』
「いやいや、それユキちゃんの家のTVの音でしょ?
さっきからずっと聞こえてるやつでしょ」
『いやいや、マジでTV消したって〜』
ヤバイヤバイヤバイヤバイ
「ウソでしょ?」
『ホントだよー』
「いつから聞こえてた?」
足が震える
背中が緊張する
怖い
『んー?たぶん家のTVの音気にした辺りかな?』
「私さ、駅から歩いてきたんだけどさ、おじさんと2人だったの、ずっと」
『え…』
「他に人居ないの」
『え!ユキちゃん走って!!』
「え、なんで!大きい声出さないでよ!」
『いいから走れ!ダッシュ!電話は切らない!』
みっちゃんの鬼気迫る声に従って私は家まで全速力で走った
静まり返る深夜の道に私の走る音と
確かに女の人のような声が聞こえる
やばい、私死ぬかも
そう思いながら必死に走り家に向かった。
「っハァ、はぁ…家の前についたよ」
『早く鍵開けて入ってマジでヤバイよ!入ったらすぐ塩とかお線香つけた方がいいよ!ほんとバヤイから!』
「う、うん」
こんな時に限って鍵が見つからない。
走ってる間に鞄の中がぐちゃぐちゃになっていた。
『ユキちゃん早く!』
「まってカギ見つからな、あった!」
ガチャガチャ開けて家の前に入ると
直ぐに鍵閉めて!
とみっちゃんに急かされた
ガチャン
「しめた、しめたよ」
『よかった!先ずは塩とかお線香、あと何だっけ…香水も効果あるんだっけ?』
「塩、線香、香水」
言われるままに台所から塩を取って自分に振りかけ、
仏間のお線香に火をつけた。
香水は鞄の中に入っていた物を数プッシュ
「取り敢えず言われたのやったけど、大丈夫かな」
『たぶん?お酒とか数珠も身につけとく?』
「うん」
『ユキちゃんに走れって言った直前に女の人の声で"もうすぐ追いつく"て聞こえたの、それまでケラケラ笑い声だったのに』
「うん」
『コレは追いつかれたらヤバいやつだと思って走れ!て叫んだの』
「みっちゃん、きこえる?」
『…きこえる』
入れない、入れない
て声が聞こえてくる
コンコンコンコン
あけて、あけて
もうちょっとだったのに
「みっちゃんお願い」
『大丈夫、明るくなるまで話してよ』
「みっちゃん大好き」
『まじか』
おわり